志音は黙った。

“生きることは、尊い。”
 その洸の言葉が耳に残った。

「私は…」

 しばらくして志音が口を開いた。

「私は、葵とは違う。生きる価値のない人間で、葵のようにすごい生き方してない。マイナス思考だし、友達もいないし、周りからは嫌われてばかりで、数少ない信頼できる人は私の周りからどんどんいなくなってった。それでも私が生きている意味ってなんなんだろう。葵のような素晴らしい人間が死んで、私みたいなダメ人間がなぜ生きているんだろう…。」

 洸は志音の言葉を真剣な眼差しで聞いていた。

「葵も、志音ちゃんと変わらないよ。決して完璧じゃない。葵も人間だから。」

 そこで洸の迎えは到着してしまった。
 洸は別れ際志音に
「それと、友達がいないなら、よければ俺が。」
と、スーツの内ポケットから名刺を出して渡した。

 ふいに志音はそれを受け取った。

 洸を乗せたタクシーは、あっという間に去っていった。