俺はどこで間違ってしまったのだろうか。
車を走らせながら必死に考えていた。

麻里奈のことだろうか。
二人は仲良くやっているように見えたけれど、人見知りの鈴乃にはやはり同居はストレスだったのだろうか。

でも、昔から妹のように世話を焼いてきた麻里奈のことを俺はどうしてもほっとけなかった。

ストーカーがもしうちの会員だとしたら、今回のことは俺の責任でもあったから。

だからつい、鈴乃の言葉に甘えてしまったのだけど、もっと彼女の本心を聞いてあげるべきだった。

でも………。
それが本当に、俺との結婚をやめた理由なのだろうか?

いまいちピンとこない。

もっと何か、鈴乃を傷つけるようなことをしていないだろうか?

あっ!
ふと浮かんだ答えに、思わず深いため息が漏れた。

これは完全に俺が悪いな。

鈴乃が頑張って誘ってくれていたにもかかわらず、俺は気づかないフリをして逃げていたのだから。

つまり、鈴乃とそういう雰囲気になることを避けていたのだ。

決して愛情がなくなった訳じゃない。
寧ろその逆で、彼女を愛し過ぎたせいだった。

ひとたび彼女に触れてしまったら、俺はたがが外れたように激しく彼女を求めて、きっとあの夜のように怯えさせてしまうと思ったのだ。

それを強く感じたのは、彼女が会社の同僚に抱きしめられたあの日だった。

俺は激しい嫉妬を覚え、彼女の首筋にキスマークまでつけていた。

もしあの場所が公園じゃなかったら、危うく彼女のことを強引に抱いてしまっていたかもしれない。

心に傷を抱えている彼女に、俺は更に深いトラウマを植え付けてしまうところだったのだ。

それ以来、怖くて彼女に触れられなくなってしまった。

その一方で、彼女に対しての独占欲だけは、どんどん膨らんでいった。

“彼女を他の男の目に触れさせたくない”と思ったし、“もとの地味な姿に戻って欲しい”とも思った。

そんなことを考えてしまう俺は、いつか彼女の兄のように彼女を洗脳して束縛してしまうんじゃないかと、自分のことが本気で怖かった。

そんな矢先の葵の一件。
俺は嫉妬と怒りで爆発寸前だった。

鈴乃を怖がらせたくなくて、あの場では平静を装っていたけれど、鈴乃を送った後、俺は葵のことを殴りに行った。

葵が鈴乃にちょっかいを出していたのは、一目瞭然だったから。

鈴乃には二度と近づかないように、葵に約束させて帰ってきたけれど、さすがに嫉妬でどうにかなりそうだった。

そんな夜に限って、鈴乃がベッドの中で寝ぼけて俺に甘えてきた。

俺は咄嗟に鈴乃を引き離し、彼女に背中を向けた。

そうでもしなければ、とても理性を保てそうにないと思ったから。

けれど、今になって思う。
あの時、彼女は起きていたんじゃないだろうかと。

だとしたら、俺は彼女にとんでもないことをしてしまった。

まだ真相は分からないけれど、とにかく早く鈴乃を捕まえなければ。

焦りと不安を感じながら、俺はアクセルを強く踏み込んだのだった。