翌朝、ベッドから起きると、零士さん達の姿はなく、“仕事に行ってきます”というメモがリビングに残されていた。

無理もない。
もう朝の9時だ。

昨日の夜更かしのせいで、私はこんな時間まで眠り続けてしまったようだ。

きっと今日が日曜日だから、零士さんも気を遣って私を起こさないでおいてくれたのだろうけれど、やっぱり顔を見て『おはよう』くらい言いたかったな。

だって、せっかく一緒に暮らし始めたのに、恋人らしいことなんて何ひとつできてない。

昨夜だって、零士さんに背中を向けられてしまったし。

……って、まあ、私が寝たふりをしていたのだから仕方のないことなのだけど、できればあのサクラージュホテルでの夜のように、私を抱きしめながら眠って欲しかったのだ。

こんな状況なら、私なんかよりも麻里奈さんのほうがよっぽど恋人のようだ。

家でも会社でも、一日中零士さんと一緒なのだから。

それに、あの二人はとにかく仲がいい。
とてもすれ違って別れたカップルには見えないし、零士さんは私といる時よりも麻里奈さんといる方か楽しそうだ。
やっぱり今でも麻里奈さんのことが好きなんじゃないかと疑ってしまう。

少なくても麻里奈さんは零士さんのことが好きなのだから、二人の恋が再熱するのも時間の問題なのかもしれない。

どうしよう。
このままじゃ、零士さんを奪われてしまう。

不安と恐怖で胸が押しつぶされそうだった。


……………


結局、ひとりで家にいてもすることもなく、ひたすら家の掃除をしてしまった。

夕方になり、零士さんから電話が入った。

『もしもし、鈴乃? 今、何してるの?』

『えっと…ちょうど買い物に出ようかと思っていたところです。今日の夕食は何がいいですか?』

『あっ……鈴乃、ごめん。今日はちょっと遅くなりそうだから俺と麻里奈の分は作らなくていいよ』

『え……』

『ごめん。一緒に食べれなくて』

『あ……いえ』

きっと私の声は沈んでいたのだろう。

『ホントにごめんな。来週はちゃんと鈴乃の休みに合わせるから』

零士さんが申し訳なさそうに謝ってきた。

『大丈夫ですよ。お仕事頑張って下さいね』

私は嫌われたくなくて、必死に明るい声で返す。

『ありがとな』

『いえ』

『じゃあ、今度の週末はさ……』

と、零士さんが言いかけたところで、電話越しに麻里奈さんの声が聞こえてきた。

『ちょっと零士~何してるのよ~。夕飯の買い出し行かないの~?』

『ごめん。うるさいのが来たから切るな』

『あっ、はい』

こうして、零士さんとの電話は呆気なく終了してしまった。

私はスマホを手に大きくため息をついたのだった。