その週末、私は零士さんと共に自分の実家を訪れていた。

5年ぶりに顔を合わせた両親の態度は、相変わらず酷いもので、零士さんを居間に通しても、父親は新聞を広げたままだし、継母なんてお笑い番組を見ながらケラケラと笑っていた。

それでも、零士さんは床に手をついて、丁寧に挨拶をしてくれた。

「初めまして、村瀬零士と申します。本日は鈴乃さんとの結婚のお許しを頂きに参りました」

すると、ようやく継母がこちらを向いた。

「へえ~鈴乃と結婚したいだなんて物好きな男ね……あんた何か弱みでも握られてるの?」

継母はフンと鼻で笑いながら、零士さんのことを舐め回すように見た。

「零士さんに失礼なこと言うのやめて下さい」

私が大声を出すと、継母はかったるそうな口調でこう返してきた。

「はいはい……結婚でも何でも好きにしたらいいじゃない。私達とはもう縁なんて切れてるようなもんなんだから。わざわざ報告になんか来て、ご祝儀でもねだりに来たの?」

やっぱり来なきゃよっかった。
こんなみっともないところを、零士さんにまで見せてしまって……。

私が泣きそうになっていると、零士さんが私の手を握りながら鋭い目つきで継母を睨んだ。

「ずいぶんな言い方ですね。いくら実の娘じゃないからって」

「だって、この子昔から気味悪いんだもの。ヘラヘラしてるけど腹の中じゃ何考えてるか分かりゃしない。義理の兄にまで色目使ってきて、こっちは迷惑してたんですよ。ねえ、あなた?」

「あ、ああ……そうだな」

父は継母に頷くと、再び新聞を読み始めた。

「そうですか。よく分かりました。もうあなた方とはホントに縁を切った方が良さそうですね。もう二度と鈴乃には関わらないで下さい。いこう、鈴乃」

零士さんは立ち上がると、父に向かってこう告げた。

「私はあなたに心から同情しますよ。こんな底意地の悪い奥様と結婚生活を送ってらっしゃって…。まあ、世の中には物好きな方もいらっしゃるってことですかね。後から孫の顔を見たいと泣きついてらっしゃっても、そう簡単には会わせませんから」

悔しそうな継母とバツの悪そうな父に、零士さんはにっこり笑いながら、「失礼します」と部屋を出た。


「ごめんなさい、零士さん」

廊下を歩きながら謝ると、零士さんが足を止めた。

「あ、いや……俺こそごめん。ついカッとなって勝手にあんなこと」

零士さんの言葉に私はブルブルと首を振る。

「いいんです。代わりに言ってもらえてスッキリしましたから」

笑顔で顔を上げた瞬間、スッと血の気が引いた。
零士さんの後ろにお兄ちゃんが立っていたからだ。

「お兄ちゃん………どうして。今日は休日出勤だったはずじゃ」

震える私を見て、零士さんが私の前に立った。

「お兄さんですか? 初めまして、村瀬と申します。実は今度、鈴乃さんと」

「鈴乃。ちょっとこっち来て」

お兄ちゃんは零士さんを無視して、私の手を引っ張った。

「零士さん……ちょっと待ってて下さい。すぐ戻りますから」

もう逃げられない。
そう観念した私は零士さんに声をかけて、お兄ちゃんについて行った。