「隠しても分かるよ、鈴乃ちゃん。ホントは零士と付き合ってるよね? このキスマークも零士の仕業なんじゃないの?」

葵さんは私の首筋に手を触れながら、自信たっぷりにそう言った。

キスマーク?
そう言えば、この間零士さんに吸い付かれたような。

あれはキスマークをつけてたのか。
ポッと顔が熱くなる。

「なに? 零士に抱かれたことでも思い出しちゃった?」

「ち、違います! 零士さんとは、まだそういうことはしてませんから!」

「まだ?」

「あっ……いえ、その」

慌てる私を見て、葵さんがニヤリと笑う。

やってしまった。
自ら墓穴を掘ってしまった。
零士さんから、あんなに口止めされてたのに。

「大丈夫だよ、鈴乃ちゃん。零士には言わないから安心して。どうせ俺には黙ってろって言われてるんでしょ? 俺が手を出すからって」

「………………」

もう彼には何もかもお見通しのようだ。
私は観念して頷いた。

「でもね、鈴乃ちゃん。多分、あいつが鈴乃ちゃんとの関係を本当に隠したがってる相手は、俺じゃなくて麻里奈だと思うよ。あいつはきっと、まだ麻里奈に未練があるはずだから」

「え……」

私は大きく動揺する。
葵さんはそんな私の髪に再びハサミを入れながら、ゆっくりと話し始めた。

「実はあの二人ってさ、大学の頃付き合ってたんだよ。一緒に住んで、お揃いのペアリングなんかつけて……籍は入れてなかったけど夫婦みたいな感じでさ。でも、大学を卒業してから、零士が今の会社を立ち上げるのに忙しくなって……ちょっとしたすれ違いで別れちゃったんだよね。その後はお互い意地の張り合いでさ……結局、麻里奈は他に恋人を作って、二年前に結婚しちゃったって訳なんだけど」

葵さんは更に続ける。

「あいつが女よけだってつけてた指輪あるでしょ? あれは麻里奈とのペアリングなんだよ。あいつは麻里奈が結婚した後も、麻里奈のことを諦めきれずに想ってた。そんな麻里奈が離婚して戻ってきて……今、あいつの心は揺れてるんだと思うよ。鈴乃ちゃんを取るか、麻里奈を取るか。でも。麻里奈を秘書にしたってことは、麻里奈を取り戻そうとしてるのかもね。だからさ、鈴乃ちゃん」

「もういいです……もうやめて下さい」

これ以上聞きたくない。
ヒクヒクと泣き出した私を、葵さんは手を止めて真剣な表情で見つめた。

「ねえ、鈴乃ちゃん。俺と手を組もうよ。俺と一緒にあいつらの仲を引き裂くんだよ。手遅れにならないうちにさ」

「え……」

思いがけない言葉に、私は葵さんの方へと振り向いた。

「俺もね……ずっと麻里奈のことが好きだったんだ。今度こそ麻里奈を手に入れたい。だから、鈴乃ちゃん。俺と組もうよ」

「葵さん………」

頭の中は真っ白だった。
ただ、零士さんを奪われたくないという想いだけが、私の心を支配していた。