その日の仕事帰り、私は葵さんの美容院を訪れた。

どうしても、麻里奈さんと零士さんのことが気になってしまったから。

“あの二人に恋愛感情なんてありえないよ”
誰かにそう言ってもらって、安心したかったのだ。

けれど、扉にはクローズの看板が。
諦めて帰ろうとした時、ガチャと扉が開いた。

「どうしたの、鈴乃ちゃん?」

中から葵さんが顔を出す。

「あっ、すいません。前髪を切りに来たんですけど、今日お休みって知らなくて。また出直しますね」

髪を切ってもらいながら、それとなく二人のことを聞き出せればと思っていたけれど、さすがにお休みの日じゃムリだ。

ペコリとお辞儀をすると、葵さんが私の腕を掴んできた。

「待って、鈴乃ちゃん。実はさ、カットモデルの子にドタキャンされて困ってたところなんだよ。鈴乃ちゃん、もしよかったら引き受けてくれないかな?」

「えっ! カットモデルをですか?」

そんなお洒落な単語、初めて口にしたけれど。
要は練習台ってことだよね?

「ダメかな? 悪いようにはしないからさ。長さもそんなに変えないし」

「そう……ですね」

葵さんも困っているみたいだし、私も当初の目的を果たせればありがたい。

「ダメ?」

「いえ……いいですよ」

「ありがとう。鈴乃ちゃん」

葵さんに手を握られて、私は中へと通された。

「じゃあ、ここにすわって」

「あっ、はい」

私はグルリと店内を見渡しながら鏡の前に座った。

ホントに今日は葵さんしか来ていないんだ。
休みの日まで偉いなと思う。

「じゃあ、全体にシャギーを入れさせてもらうね」

「は、はい。どうぞ」

もう髪のことなんてどうでもよかった。
上手く二人のことを聞き出せるだろうかと、そればかり考えていたから。

「あ~そう言えばさ、麻里奈って覚えてる?」

突然、葵さんが切り出した。
まさにタイムリーな話題にドキッとする。

「あっ、はい。この間の方ですよね。覚えてますよ。昼休みにパン屋さんで会いました。村瀬さんの秘書になったそうで、買い物を色々と頼まれてましたよ。なんかあの二人ってお似合いですよね。もしかして過去に付き合ってたとか、そんな感じなんでしょうかね」

って……。
私、下手過ぎる。
テンパりすぎて、全然さり気なく聞けてない。

自己嫌悪に陥っていると、葵さんがふっと笑った。

「なるほどね。鈴乃ちゃんは二人の関係が気になって俺のとこに来た訳ね」

「い、いえ……別にそう言う訳じゃ」

私は慌てて首を振る。