その後、公園のベンチでパンを食べながら、甘い時間を過ごした私達。

青空の下で、思いきりランチデートを楽しんだのだった。



「今度さ、鈴乃のご両親に挨拶に行きたいんだけど」

公園から戻る途中、零士さんが突然そう口にした。

「え……」

「実家どこ?」

「あ……うちのアパートの近くです。けど……あんまり顔出してなくて」

「もしかして、ご両親と上手くいってない…とか?」

零士さんの言葉にドキッとする私。

「あっ、いえ…。そういう訳じゃないですよ」

私は笑いながら首を横に振った。

「じゃあさ、今度都合の良い日をきいておいてもらえるかな?」

「はい。わかりました」

確かに結婚するのに無視する訳にもいかないか。
まあ、私に関心のない人達だから、反対まではしないだろうけれど。

今ならお兄ちゃんもいないし、寧ろチャンスなのかもしれない。

なんて、そんなことをボンヤリ考えていたら、いきなり誰かに肩を掴まれた。

「す・ず・の・ちゃん!!」
 
えっ!と振り返ると、葵さんが笑いながら立っていた。

「おまえ…馴れ馴れしく触るなよ」

零士さんがムッとしながら、私の肩に置かれた葵さんの手を思いきり振り払った。

「いいじゃん、別にね?」と葵さんが苦笑いを浮かべながら私に同意を求めた時だった。

「へえ~、その人が零士の彼女?」

葵さんの後ろから、髪の長い綺麗な女性がひょこっと顔を出した。

「麻里奈!?」

零士さんの目が大きく開いた。

「零士、久しぶり!」

「久しぶりって……おまえ、結婚してシンガポールにいったんじゃなかったのか?」

「それが、旦那と上手くいかなくて、出戻ってきたんだってさ」

葵さんが麻里奈さんの代わりに答えた。

「なに、おまえ…離婚したの?」

「そうよ。悪い? 今度、零士のところにお世話になるから宜しくね。今度は優しい男がいいかな」

ポカンとする零士さんに、麻里奈さんはあっけらかんとした様子で返した。

「そんなことより、零士こそ、そちらの方はどなたなのかしら~? 零士の彼女なんでしょ?」

麻里奈さんの言葉で零士さんが私を見た。

私は身構える。
上手く挨拶できるだろうか。

けれど、零士さんから飛び出したのは耳を疑うようなセリフだった。

「違うよ。彼女はうちの会員さんだから」

え…?

私はショックのあまり、挨拶はおろか上手く笑うことさえできなかった。

零士さん、どうして?
何で婚約者だって紹介してくれないの?
やっぱり私なんかじゃ恥ずかしい?

頭の中は真っ白だった。

「そうなの? 手なんか繋いじゃってずいぶん親しそうに見えたけどな」

「ああ、あれだろ? 例のデート講習ってやつだろ?」

「なにそれ」

「本番のお見合い相手と上手くいくように、直接会員さんに指導してあげてるんだって」

「へえ~そんなことまでするんだ~」

葵さんと麻里奈さんの会話が続く中、零士さんは一言も否定しなかった。

「あの……すいません。私、そろそろ会社に戻らないといけないので失礼します」

それだけ言うのが精一杯。
私は二人にお辞儀をすると、零士さんの顔も見ずに会社へとかけだしたのだった。