そんな夢のような告白をされて、ポーとしたままレストランを出ると、村瀬さんが甘く耳元で囁いてきた。

「今日はこのまま泊まっていく?」

「えっ?」

「ダメ?」

「あっ…いえ。ダメっていう訳じゃ」

どうしよう。
30にもなって断るなんておかしいよね。
結婚だって約束した仲なんだし。


「あの…私、村瀬さんを満足させられる自信ないんですけど、精一杯頑張りますので、どうかお手柔らかにお願いします!」

私の言葉に、村瀬さんはえっ?という顔をして、すぐにぷっと吹き出した。

「え」

「ごめん。鈴乃が色々とおもしろいから」

村瀬さんは私の頭を撫でながらクスクスと笑う。

「じゃあ、そこまで言ってくれるなら頑張ってもらおうかな。さすがに今日は手を出すつもりはなかったんだけど」

「え!」

「ちゃんと優しくするよ」

村瀬さんは私の肩を抱き寄せてそう言うと、愉しそうな表情でホテルの廊下を歩き出したのだった。


……



「む、村瀬さん」

「ん?」

「ごめんなさい……やっぱり私」

ベッドの中でキスをして、ワンピースを脱がされたところで、私はとうとう根を上げた。

「怖い?」

「いえ…怖いとかじゃないんですけど……ごめんなさい」

どうして、私はいつもいつも。
弱い自分が情けなくなる。

村瀬さんとこうなれて凄く嬉しいと思うのに。

“鈴乃の体じゃきっと男を欲情させられないよ。ガッカリされてすぐに捨てられるのがオチだ”

耳元で繰り返されるお兄ちゃんの言葉に、体がブルブルと震え出していた。

「ごめん。無理させた。もう今日は何もしないから安心して」

村瀬さんはそう言うと、私を後ろから優しく抱きしめてくれた。

「村瀬さん……ごめんなさい」

「気にしなくていいよ。俺はこうして鈴乃にくっついていられれば十分だから」

「村瀬さん……」

「あ、じゃあ、ひとつだけ。鈴乃も俺のこと名前で呼んで」

「え」

「零士って」

「あ、はい。えっと……零士さんでいいですか?」

「さんづけ? 俺より4つも年くってるくせに?」

「そう言われても、性格的にいきなり馴れ馴れしいことできないんです。年くってるくせにどうもすみません」

プクッと頰を膨らます私をみて、村瀬さんはクスリと笑った。

「はいはい。ごめんな」

そんな会話を交わしているうちに、すっかり私も落ち着きを取り戻していた。