約束の19時。
ボーイに案内された窓際のテーブル席には、村瀬さんが一人ですわっていた。

お見合い相手の男性はまだ来てはいないようだ。

「すみません…お待たせして」

私は村瀬さんに頭を下げて向かいの席につく。

「いいえ」

村瀬さんは優しく微笑んでくれたけれど、そのよそよそしさに、所詮私達はスタッフと会員でしかないのだと思い知らされる。

私が勇気を出したら変わるだろうか。

もう玉砕したって構わない。
ちゃんと自分の気持ちを伝えよう。

大きく深呼吸して村瀬さんに告げる。

「あの、村瀬さん……あとでお時間頂けますか? 村瀬さんにお話したいことがあるんですけど」

今日のお見合いはお断りして、村瀬さんに告白するつもりだったのだけど。

「それなら、今、どうぞ?」
 
村瀬さんから予期せぬ返事を返された。

「いえいえ、今はちょっと無理です! もうすぐお相手の方だってみえてしまいますし…」

慌てて首を振り入口の方に視線を向けると、村瀬さんが信じられない一言を放った。

「もう誰も来ませんよ。今日の見合の相手は私ですから」

「へっ?」

思わず間抜けな声を出してしまったけれど、今のは私の聞き間違い?

いや、村瀬さんはハッキリと言った。
でも、何で?

ポカンとする私に、村瀬さんは真剣な顔でこう言った。

「改めまして、村瀬零士と申します。あなたよりも4つ年下で、もの静かなタイプでもありませんが、先日条件が変更されたようなので立候補しました」

確かに“村瀬さんみたいな人”とは言ったけど。
どうしてこんなこと?

驚いている私に、村瀬さんは熱っぽい視線を向けながらこう続けた。

「あなたのことが好きです。もう他の男性にあなたを紹介したくありません。私と結婚を前提にお付き合いしてもらえませんか?」

突然の告白に頭が真っ白になった。

村瀬さんが私を好きだなんて…。
そんな都合のいい話があっていいのだろうか。

「あ……あの。これって……お見合い講習とか…そういう感じの……」

「めちゃくちゃ本気ですけど」

「え」

ホントに?
夢じゃなくて?

どうしよう。
嬉しくて、このままどうにかなってしまいそうだ。

「返事を聞かせてもらえますか?」

「あっ……はい。えっと…私も……村瀬さんのことが好きです。こ、こちらこそ、宜しくおねがいします」

あまりの恥ずかしさに俯きながら答えると、村瀬さんがすかさず呟いた。

「もう一度」

「え?」

「ちゃんと俺の顔見て言ってくれないかな」

ハッと顔を上げると、村瀬さんが私を見つめながら笑っていた。