その夜、私はクローゼットの中から、倉本さんに選んでもらったもう一着の勝負服を手に取った。
“こっちも仙道さんに似合ってますよ”
彼女の一言で即決した淡いグリーンのワンピース。本当は次の“デート講習”で着るつもりだった。
せっかく、村瀬さんに見せるのを楽しみにしていたのにな。なんでこんなことになってしまったんだろう。
涙がジワリと込み上げてくる。
バカだな…私。
心の中はこんなにも村瀬さんでいっぱいだというのに。
“鈴乃は恋愛には向いてないよ。きっと勘違いして傷つくだけだから”
お兄ちゃんの言葉が耳もとで繰り返えされる。
そうだ。
私は恋をしちゃいけなかったのだ。
しちゃいけないことをしたから苦しいんだ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
私は耳を塞ぎながら、ベッドの中で泣き続けた。
………
そして、一夜開け、私はお見合いの日を迎えてしまった。
仕事もあまり手につかず、憂鬱なまま一日を過ごした。
「お先に失礼します」
ため息をつきながら経理課を出ると、倉本さんが待ち構えていたように立っていた。
「仙道さん、ちょっと来て下さい」
彼女は私の腕を掴み、そのまま会議室へと入っていく。
「く、倉本さん、どうかしたの?」
「どうかしたのじゃありません! 仙道さん、このままでいいんですか? 彼に自分の気持ちを伝えなくていいんですか?」
倉本さんは真剣な表情で私に訴えかけた。
「だ、だって……そんな勇気、私にはとても」
「そんなの皆な一緒ですよ! 私だってずっとそうでした!」
「倉本さん……」
大声を張り上げた彼女を私は黙って見つめた。
「私……ずっと青山主任のことが好きだったんです。でも、フラれて傷つくのが怖かったし、自分の気持ちを隠そうといつも可愛くない態度をとってしまってました。だけど、昨日、仙道さんに背中を押してもらって……ようやく素直に言えたんです。そしたら青山主任にも好きだって言ってもらえて。私と青山主任、付き合うことになりました」
「そ、そうなんだ。おめでとう」
「あっ、いえ…別に報告がしたかった訳じゃなくて、私が何を言いたいかというと、自信がないとか怖いとか…そう思ってしまうのは仙道さんだけじゃないってことです!恋をして臆病になるのは誰だって一緒ですから! 仙道さんも自分の殻を打ち破って下さい! 自分の気持ちを大事にして下さい。以上です!」
「う、うん」
倉本さんの言葉に圧倒されて私がコクリと頷くと、彼女はにっこり笑って、そのまま会議室を出て行った。
怖いのは皆な一緒か……。
そうだよね。
後輩の言葉を噛みしめながら、私はサクラージュホテルへと向かったのだった。



