「うーん。そうですね~。じゃあ、今度はこっちを着てみて下さい」

倉本さんに渡された服を持って、再び試着室へと入る私。

そう。
私が倉本さんにお願いしたのは、一緒に服を選んでもらうことだった。

「どうですか?」

倉本さんの声に私はカーテンを開ける。

「あ…すごい。これいいです。似合ってます!」

歓喜の声を上げる倉本さん。
花柄のスカートに淡いイエローのニットカーディガン。

季節問わず黒っぽい服ばかり着ている私には、ちょっと眩しすぎるカラーだけど。

「うん。これにしようかな」

私も笑顔で頷いた。


……


「今日は本当にありがとう」

無事に服を購入した後、駅ビルに入っているパスタ屋さんに入った。

会社の同僚と個人的に食事をするなんて初めての私。
なんだか緊張してしまう。

「あ…何でも注文してね。きょ、今日は私の奢りだから…よっ、良かったら、デザートも」

「フフ。仙道さん落ち着いて下さい。後輩相手に何緊張してるんですか~」

クスクスと笑われてしまった。

「でも、私。誰かと食事するなんて凄く久し振りで…それに、知っての通り対人恐怖症だから」

後輩相手に情けない発言とは思いながら、正直な気持ちを口にした。

「大丈夫ですよ。私は知っててご一緒してるので気負わないで下さい」

何とも頼もしい言葉が返ってきた。

「ありがとう」

本当にどっちが先輩だか分からない。
でも、気持ちがスッと楽になった。

「それより、今度のデート頑張って下さいね」

メニューを開きながら、倉本さんが呟いた。

「え? デート?」

「はい。今日はデートの服を買いに来たんですよね?」

ニヤリとする倉本さんに、私は照れながら首を振った。

「あ~違うの。デートっていうか……模擬デートね」

「は? 模擬デート?」

キョトンとする倉本さんに、私は結婚相談所に入会したことを打ち明けた。

「そうだったんですか……。でも、すごく楽しそうですね。なんか恋してる乙女の顔してますよ。もしかして、その担当のスタッフさんに惚れちゃいましたか?」

倉本さんの言葉を慌てて否定する。

「まさか…。だって、彼は既婚者だから」

その瞬間、胸がズキンと痛んだ。

え?
また…私。

どうして村瀬さんのことを考えると、こんなに切ない気持ちになるんだろ。

その気持ちの正体を、気づいてはいけないような気がした。