そして、パーティーの日を迎えた。
私は濃紺のスーツに身を包み、会場となっているサクラージュホテルへと向かった。

受付開始は11時だったけれど、緊張のあまり1時間も早く来てしまった。

何だか凄く気合いが入っている人みたいで恥ずかしい。

とりあえず、下見でもしておこうかと廊下をウロウロしていると、となりの会場から出てきた年配の男性が私を見て近づいてきた。

「ん? 君は…うちの会社の説明会に来た子かな?」

きっと、私の格好がリクルートスーツにでも見えたのだろう。学生に見られたことを喜ぶべきか、それとも地味さを反省するべきか。

もちろん後者なのだろうけど、そんなことを考えている余裕などなかった。

「まだ間に合うから、一緒に来なさい」

そう言って、男性が私の腕を摑んできたのだ。

マズい。
このままじゃ、会社説明会の会場へと引きずりこまれる。

「いえ……あの、違うんです。私は学生ではなくて」

必死に訴えるも、私の声が小さいのか全く男性に届かない。

その時だった。

「すいません。彼女を離してもらえますか」

村瀬さんがスッと現れて、男性から私を引き離してくれた。

「え? だって彼女はうちの説明会に来たんだろ?」

「違いますよ。彼女が学生に見えますか?」

「あ~確かに。化粧っ気はないけど学生ではないな」

男性はそんな失礼な会話を村瀬さんと交わすと、「こりゃ失敬」と言いながら、となりの会場へと消えて行った。

「………どうもありがとうございます」

心からお礼が言えないのはどうしてだろう。
ちょっと拗ねていると、村瀬さんがプッと笑った。