きみだけに、この歌を歌うよ




「わりぃわりぃ。行こうぜ」

「うん、行こっか」



ペンケースと教科書を片手に駆け寄ってきた九条くんと、歩調を揃えて階段をのぼる。

私と九条くんの足音だけが、パタパタとひとけのない階段に響いていた。



ついさっきまで、愁に対しての怒りに震えていたのに。

泣いていたのに。

九条くんと一緒に静かに階段をのぼってたら、不思議と心が落ちついてきた。

愁と杏里ちゃんに対する怒りも消えてきた。



「あっ、そうだ!」



九条くんで思い出した。

昨日の夜に見た動画だ。



「ねぇ九条くん。私、びっくりしたんだけどね……九条くんってカラオケ番組に出たことがあるんだ?」