きみだけに、この歌を歌うよ





私が愁のバカなんて言うから、どうやら同じ名前の九条くんに誤解を招いてしまったようだ。



「ちっ、違う!」

「でも今、シュウって聞こえたけど」

「シュウっていうのは元カレの愁ことなのっ‼ほら、渋谷愁っていうのが同じクラスにいるでしょ?」

「そうだっけ、いちいち覚えてねぇわ。チッ、なんだよ紛らわしいなぁ」



私から不機嫌に顔をそらした九条くんはくるりと背中を返し、向こうの岩山にむかって歩いていく。



「次からフルネームでやれよな。ったく」



冷たい言葉だけを、私のもとに残していった。