私よりも杏里ちゃんの方が愁の彼女にふさわしい?
そんなこと、言われなくてもわかってたよ。
なんであんな地味な子が渋谷くんと付き合ってるの?
名前を知らない人にさえも、もう何度も何度も、そんなことを言われてきたから。
私が愁に不釣り合いなことくらい、ずっと前からわかってた。
「バカ……バカバカ、みんな嫌い。大嫌いっ……!」
そのまま泣きながら、走って、走り続けて。
また、あの海にやってきた。
杏里ちゃんにぶつけられなかった怒りを発散するために。
だけど、叫ばなかった。
というか、叫べなかった。
むこうの方に、ギターを手に水平線をむいて座りこんでいる九条くんを見つけてしまったから。


