追憶のディアブロ【短篇】



 だが……彼の執念は消えたわけではなかったのだ。

「娘を……お前の母親を殺したのはゴーストじゃ」

 姿を消した双子の弟から、八年ぶりにうけた連絡。ディアブロとセルゲイしか知らぬはずの妻と娘の居場所が書かれた手紙を見て、ディアブロが駆けつけた時にはもう遅かった。

 彼がその場所の近くまで来たところで、道端で愛した女は撃たれ、ディアブロの姿を見たゴーストはすぐに姿を消した。

 残されたのは、八年ぶりに会う……意識を失い倒れた娘。

 少女は自らに父親がいることを知らない。唯一の肉親である母親を失い、目覚めた後悲しみにくれるだろう娘を思い、ディアブロは悲しみを越える憎しみを、少女に与えることにした。

 悲しみは命すら絶たせることがある……だが、憎しみは時に強く生きる意思を持たせることがあると、ディアブロは知っていた。

 そして、今度は。手遅れにならないよう、どんな時でも守れるよう、娘を側に置くことに決めた。

「でも……なら、何故。わざわざ自分を憎ませたの? 本当のことを言ってゴーストを憎ませればよかったはず……」

 真実はあまりに過酷だった。

 誤った思い込みで、私は実の父親をずっと憎み……そして、ディアブロの手に引かされたとはいえ、自らの手で自らの父親に引き金を引き、殺してしまったのだ。

 こらえきれず、溢れた涙を拭うことすら出来ずに訴える私に、セルゲイは言った。

「あいつは……ディアブロは何よりも自分が許せなかったんじゃよ。愛するものを守りきれなかった、愛する娘の母親をみすみす死なせてしまった自分をな……」

 

 だから、憎めと。

 仇を討てと。

 母親を守りきれなかった自分を許すなと……



「そんなの……そんなの勝手すぎるっ……」

 自分勝手な思いを押し付けて逝った男を恨み、何時だって、最後まで。常に彼が自分のことをその身で守ろうとしていたことに今更気付き、気付かなかった自らの愚かしさを呪い、声をあげて泣く私を、セルゲイは抱きしめる。

 裏世界の主と呼ばれた老いた男。

 その男の目からも零れ落ちる雨が、私の肩を濡らすのを感じながら……私はただずっと泣きつづけた。