追憶のディアブロ【短篇】





「ジーン!! 無事だったか!?」

 


 どれくらいたった後だろう?

 水しぶきでびしょぬれの私が荒れ果てた中庭に立ち尽くすのを見つけ、出先から戻って来たセルゲイが駆け寄りきつく抱きしめるまで。

 私の頭の中は空っぽだった。

「すまない……こんなことになるなら、早く話しておくべきじゃった」

 屋敷の奥のセルゲイの部屋に連れてこられ、セルゲイの世話係のメイドにシャワーを浴びせられ、着換えをすませた私を椅子に座らせ、セルゲイは沈痛な面持ちで語り始めた。

 瓜二つの顔を持つ二人の殺し屋の真実を――

「ディアブロとゴーストは双子の兄弟で、元々二人ともこの組織に所属していたんじゃ……」

 元は仲の良い兄弟だったという。見た目に限らず思考や好みもあう二人は当然息が合い、気も合った。だが、二人はあまりにも似ていたために……その絆が崩れることになる。

 二人は一人の同じ女性を愛した。

 セルゲイの娘。そして……それが私の母親だった。

 そして二人に求愛された彼女は、ディアブロを選んだ。それはゴーストにとって耐えられない出来事だった。

 執着心と激しい嫉妬。それらに狂ったか、ゴーストはディアブロ達にたいして危げな発言を繰り返すようになり、彼女をなんとか手に入れようと脅迫まがいの発言で二人を脅しだした。

 そして彼女が身ごもったと知るや否や、それを行動に移そうとした。

 手に入らぬなら、壊してしまえばいい……

 そんな狂った思いに駆られて起こした行動はすんでのところでセルゲイに気付かれ、阻止されたものの、彼女と子供の身を案じたディアブロは、ゴーストも知らぬ遠く離れた地へ彼女を暮らさせることにし、セルゲイもそれに賛同した。

 探しても見つからぬ彼女の姿に諦めたのか、しばらくするとゴーストは組織を離れ、姿を消した。