追憶のディアブロ【短篇】





「どう……して……」

 ずっと、ずっと望んできた瞬間だったのに。

 どうしてか、ディアブロの左胸に突きつけた銃を持つ手が震えて、引き金が引けない。

 何かが腑に落ちない。何かが引っかかっていた。

 私の目の前で母親を撃った憎むべき男。なのに、何故……指が動かない。

 銃を突きつけたまま震えて動かない私を見ていたディアブロが

「何を……してる。はや……く……しやが……れ」

 息も絶え絶えに言いながら、私のほうへ手を伸ばす。

「!? ……嫌っ……!!」

 手を引こうとするも引けず、ディアブロの手が重ねられ。

 そして……



 ――バシュッ



 くぐもった音。

 ディアブロは自らの手で、私に引き金を引かせた。

 正確に、至近距離で急所を打ち抜かれたディアブロはビクンと体を震わせ、そのまま動かなくなった。

 ずるりと、重ねられていた手が滑り落ちていく。

 私は身動き一つ出来ず、ただ茫然とその様を見ていた。

 終わった……

 あんなに待ち望んだ瞬間はこんなにもあっけなく。

 だけど、何故だろう。

 血に染まり、水に濡れたディアブロの体を見ていると……

 七年前に母親の遺体を前に感じたのと同じ痛みが私の胸を締め付ける。

 それに気付き、私は狼狽した。

 何故だ。ずっと憎んでいた相手だというのに。

 何故ディアブロ相手にこんな痛みが……

 恍惚として立ち上がり、倒れているもう一人の男のほうへふらふらと近づく。

 水しぶきをくぐり抜け、その男。ゴーストの顔を目にした瞬間……私は更なる混乱に襲われた。

「どういう……こと?」

 額の真ん中を撃ち抜かれた男の顔は、よく知っている顔だった。

 灰色の髪……

 ディアブロと瓜二つの死に顔が、そこにあった。