敵の殺し屋の名前は『ゴースト』

 ゴーストと呼ばれるのは、彼に狙われた者は必ず殺されてしまい、その顔を知るものがいないから。

 そんな凄腕の殺し屋を、敵組織が雇ったらしいという噂を少し前に聞いた。

 誰も顔を知らない殺し屋。そんな者が存在するのか?

 同じく裏世界では名の知れたディアブロなら知っているだろうと、ゴーストについて訊ねたが、ディアブロは表情を険しくさせただけで口を閉ざし答えてくれなかった。

 だが、着々と屋敷の奥へと近づいてくる銃声と、目の前の背中から伝わる普段では感じられないほどの緊張感が、噂は本当なのだと訴えてくる。

「いいか、ジーン。奴が出てきてもすぐには撃つな……それくらいは奴も読んでる。撃てば居場所が知れる。知れれば、かわし様にこっちがやられる」

 小声でディアブロが私に指示した。

「しばらく歩かせて俺が撃つ。それに続いて撃て」
 
 振り返ることもせず、返事を確認することもなく、ディアブロはすぐさま前方へと意識を戻した。もう私のことなど頭に無い。

 今では彼の意識がどこにあるか、空気だけでそれを読める。

 そのことを天に感謝する。

 ディアブロの側で過ごした七年間。私は決してこの男への憎悪を忘れたわけではなく、ずっと隙あらばこの手の銃で撃とうと、その機を伺ってきた。

 そのためだけに、ずっとこの憎んでも憎みきれない男のそばにいたのだ。

 だが、どんな状況でもディアブロにそんな隙は見当たらなかった。

 たとえ背を向けていようが、敵を相手に交戦中だろうが。

 常に周囲全体に張り巡らせられている注意力の細かさと鋭さの前に、私は狙いを定めることすら出来ずにいた。

 だが、それが今はどうだ。