追憶のディアブロ【短篇】







「ふう……」

 本格的に冬を迎えようと、飾りを変えた街の人ごみに目を走らせながらかじかむ手に息を吹きかける。

 その手に冷たい感触を感じて見上げると。冴え渡る青空から落ちてくる雪時雨。

「止めようというの? ディアブロ……」

 冴えた空から落ちる雨はいつもあの日を、そして彼を思い起こさせる。

「無駄よ……私は私で業を負うと決めたんだから」

 ゴーストによって荒らされた屋敷の補修が終わる頃、死んだファミリーの報復をすると私はセルゲイに告げた。

 ゴーストを送り込んだ組織の首領を暗殺する。

 その為に今、私はこうして街角に身を潜めて、情報どおりならもうすぐここを通りかかるはずのその男を待ち構えている。

 セルゲイは止めた。そんなことを私がする必要はないのだと。他の者にやらせると。

「もう、そんなモノをお前が持つ必要はないんじゃよ。私がお前を守るから」

 そう言ってセルゲイが取りあげようとした銀の銃。ディアブロにもらったソレを差し出すことを私は頑なに拒み、銃は今、コートのポケットで出番を待っている。

 セルゲイが孫の私の幸せを願う気持ちは重々分かっていたが、私は自分で自分の罪を償おうと決めた。

 弱さと無知ゆえの過ち――

 愚かだろうが、ディアブロがそうしたように、私もまた、こうして罪を背負うことでしか罪を償えないのだ。

「来た……」

 待ち構えていた男の姿を確認し、ポケットに潜ませた銃に手をかけて待つ。

 スローモーションで切り取られたかのように、訪れた瞬間を逃さぬように狙いを定め。

 自らの意思と決意で、私はその引き金を引く。




 








 涙のように降りしきる雪時雨。













 
 濡れる街に、乾いた銃声が響いた――

 

 

【完】