そんな滝本が使用人見習いとしてアルバイトで働き出したのは、一昨年の春頃。
高校を卒業したら本格的にうちで働き出したいと言って、お父さんに頼み込んだらしい。
昔からよく家に出入りしていたこともあって、信頼が厚い滝本は即採用。
よく私が懐いていたからか、すぐに私のお世話役として抜擢され、今に至るというわけだ。
「お嬢様が送り迎えをさせて下さらないので、滝本は暇で暇で……ついにお菓子作りにまで手を出してしまいました。よよよ…」
「滝本だって学校があるんだから送り迎えなんて大変でしょ。それにそうやってお嬢様扱いしないでっていつも言ってるじゃない。その話し方もわざとらしいからやめて。二人きりなんだからいいでしょ」
嘘泣きをしてる滝本にしらけた目を向けると、「あぁ。そっか」と言ってポンと手を打つ滝本。
クシャリと私の髪を撫でる。
「鈴。すぐにお茶にするから着替えたら下りておいで」
「りょうかーい」
二人きりの時は昔と同じように砕けて話してくれる滝本。
滝本は、この息苦しい檻の中で唯一気の置ける相手だ。
兄妹のいない私にとって、まるでお兄ちゃんのような存在。
家に対する愚痴とか不満とか、昔から全部滝本が聞いてくれた。
滝本がいなければ私は、とっくのとうに西園寺家という名の重みに潰されていたと思う。
だから、滝本には感謝の気持ちでいっぱいなんだ。
着替えを済ませて、颯爽と滝本の待つリビングに向かった私は思わず「げっ」と声を漏らした。



