だめだ。


滝本、すごく怒ってる。


完全に聞く耳を持ってもらえない。



私……このまま家に連れ戻されちゃうの?


……そんなのやだよ。




私はまだ、


会長と────。





「……っやだってば!!」



────バシッ!!




気が付けば、私の腕を掴む滝本の手を強く払ってしまっていた。


いつになく冷たい滝本の眼差しが、私を見下ろす。



「嫌だっ……!私、まだあの家には帰りたくないっ!」


「そんな子供みたいなワガママ、いつまで通るとお思いですか?」



わかってる。


わかってるよ。


自分が子供みたいにだだばかりこねて、みんなを困らせてるんだってこと。



「いつまで“西園寺家”から逃げているつもりですか?逃げていて、何かが変わるのですか?
お嬢様が西園寺家の中で、昔から窮屈な思いをされているのは重々承知しております。旦那様に不満がおありなのも。しかし、逃げていたって何一つ今の現状を変えることはできない」



滝本の手が、小さく震える私の頬に優しく触れる。


小さな頃から、私に大切なことを言う時の滝本の癖だ。



「滝本は、いつでもお嬢様の側におります。ですからどうか……どうか逃げるのではなく、一歩を踏み出す勇気を……」



懇願するかのように、切なげに歪む滝本の表情。