「鈴っ!!」
私の手首を掴み引き止める滝本に、私はゆっくりと口を開いた。
「ごめん滝本……もう限界。私は、もうこの家にいたくない」
「鈴……」
私、よっぽど酷い顔してるのかな。
言葉に詰まり苦しそうに顔を歪める滝本の手を振り払って、私はまた走り出していた。
途中で息が切れそうになっても、
足がジンジン痛んでも。
小鳥が籠を飛び出して、広い広い空を目指すように。
遠くへ遠くへ────。
***
「って言っても限界ってもんがあるよね」
茜色に染まった空が遠くの方で小さくなって、夜の帳が落ち始めてる。
ひたすら走って走って、いっそ誰も知っている人のいない遠くの地に行こうか……なんて考えながら電車に乗ろうとしてようやく気がついた。
……私、部屋に財布置いてきたじゃん。
もぉぉぉ!!!
なんっっって詰めが甘いんだ私っ……!!
所持品は、辛うじてポケットに入ってたスマホのみ。
これだけでどうやって家出しろと……!?
電話して。誰かの家にかくまってもらうとか?
と考えてはみたものの……。



