お母さんはいつだって、西園寺家という重い荷物を背負う私の心の支えだった。
「……あれは、楽観的な人間だったからな」
「違う!!なんで分からないの!?お母さんだって西園寺家にお嫁に来て、沢山苦労してた!お父さんが知らないだけじゃない!」
「……っなんだ!その口の利き方は!」
「お父さんがそんなんだから、お母さんは死んじゃったんだよ!!」
バチンッ!!という頬への衝撃と共に「お嬢様!!」と慌てて滝本が駆け寄ってくる。
叩かれた頬をおさえ、叩いた張本人をきつく睨みつければ、温度のない瞳でお父さんは私を見つめていた。
最低だ。
この人も、西園寺家なんてもんも、この家に生まれて来てしまったこの運命も全部全部。
誰も私のことなんて見てくれない。
誰にも声が届かない。
こんな惨めな人生……捨てられたらいいのに。
全部捨てて、この窮屈な檻から抜け出せたらいいのに。
そう思うと同時に駆け出していた。
「お嬢様!待ってください!!」
滝本の呼び止める声も聞かず、きちんと靴を履くこともせず、踵を踏んだまま玄関を飛び出す。



