俺が部屋でベッドに寝転んでいると、いい匂いが漂ってきた。

甘い、果実のような、血の、匂い…。

それと同時に俺の体を猛烈な吸血衝動が襲う。

俺は歯をくいしばり、シーツを無茶苦茶に握りしめた。

これは…小雪の血の匂いか…?

なんで、こんなに強い血の匂いがするんだ?

俺は嫌な考えに突き当たり、バッとベッドから飛び起きた。

吸血衝動で怠くなった体を懸命に動かし、部屋の窓から飛び降りた。

部屋の外に出るともっと匂いが強くなる。

小雪、自分を傷つけたのか?

俺のせいだ…。

俺があんなことを言ったからあいつは…。

俺は吸血衝動と感情で苦しくなる胸を押さえながら小雪の家の柵を飛び越え、小雪の窓の横にあるベランダまで移動する。

そして、窓を叩いた。

ダメだ…。

返事がない。

俺は玄関の方に行くとチャイムを鳴らした。

裸足だが、そんなことを気にしている暇はない。

「はい?」

「優也です!小雪に急ぎの用で」

「今、開けるわね」

それから少しして、ガチャっと鍵が開いた。

俺は開けたおばさんの横を「お邪魔します」と言ってすり抜けた。

そして、駆け足で小雪の部屋に続く階段を上がる。

小雪の部屋の前まで来るとドアを勢い良く開けた。

そこには床に血を広げ、倒れている小雪がいた…。

不審に思ったのか、俺の後からおばさんが上がってきて俺の方にやってきた。

そして、唖然とした。

それはそうだろう。

自分の娘が腕から血を流して倒れているんだから。

「おばさん!救急車!」

おばさんは俺の言葉に我に返ると階段を駆け下りていった。

俺が小雪をこんな風になるまで追い詰めたんだ…。

俺は、一体何をしたかった?

小雪を殺さない様に距離を置いていたのに、小雪は自分からこんなことをして…。

俺はどうすれば良かったんだ…?