千花が不思議そうに聞き返した。
「その当時……俺も妻もまだ若くてね。
事故に遭い俺は、一生歩けないし
子供も無理だと言われ
妻の家族が離婚を勧めていたのを聞いた。
まだ若いのだから、離婚をして
新しい人生を歩めってさ。
妻は、必死にそのことを隠そうとしていたけど
それが返っていじらしいというか健気で」
「俺も正直迷ったさ。妻のことを考えたら
離婚して解放してあげるのも愛情ではないかって。
一生俺の面倒を看させるには、あまりにも
可哀想だとも思った。
でもさ……そうしたら
プロポーズの言葉が嘘になってしまう。
“一生かけてお前を幸せにしてやる”って
誓った約束。
あれだけは……どうしても譲れなかったんだ!」
切なそう話す源さんに
胸がギュッと締め付けられそうになった。
「若い内に夫の介護をさせられるなんて
他人から可哀想だとか惨いと言われるだろう。
俺のワガママや自分勝手だとも……だけどな。
人なんて何かしら、人に助けてもらったり
世話になっているものだ。
俺は、ワガママでもいいから……アイツに
そばに居てほしかった」
「夫にするなら収入の多い奴やイケメンで
健常者の男の方が理想だろう。でもな。
好きな女1人笑顔に出来ない男ほど
カッコ悪いことはない。
俺は、アイツに笑ってくれるなら
どんな苦痛も辛さも我慢が出来る!」
真剣な眼差しで話す源さんは、
とてもカッコ良かった。
「すげぇ……源さん。カッコいい……」
俺は、憧れの眼差しで言った。
「そうか?ありがとよ。
今だと笑顔が緩みっぱなしで
アイツに“だらしがない”と言われるけどな」
アハハッと豪快に笑っていた。



