【完】そして、それが恋だと知った日。


浴衣姿、見たかったかも。
少し残念に思いつつ。
見たことのないシャツを着た伊澄くんの姿に。
またひとつ、ときめいた。


「じゃ、いこっか。」


顔を背けたまま伊澄くんは駅中へと足を進めた。


浴衣の感想とか、ないのかな。
頑張って、新しくしたし。
帯の結び方だって、お母さんにこれが良いって頼んでみたりして。
髪の毛もいつもと違う感じにしてきたし。
褒めて、もらいたい。


かわいいって、言われたい。


……なんて欲張りかな。
あんまり似合ってないかもだし。


先を歩く伊澄くんが少し遠く感じる。
いつも隣歩いてくれるのに。
今日は前歩いてる。
顔、見れないし。


ぼーっと前を歩く伊澄くんを見ていると。
いきなり後ろを振り向いて切符を差し出された。


「えっ。」


「切符、買っておいた……から。」


「えっ、ありがとう。お金……」


「いいよ、いらない。」


「でもっ。」