紳士という言葉は元原さんのためにあるのだろうと何回も思ったことがある。

同期の他の男性とは比べられないほど、彼は大人だ。
物腰は柔らかく、だけど、仕事に妥協したことは一度もない。

営業成績は常に上位5位には入るし、努力家の彼を悪くいう人はいない。

そんな彼はモテる。

「元原さーん。夕飯行きません?美味しい店があるんですよ〜」

「ごめんね。これからもう少し残業するから、また今度!」

「そっかぁ。頑張ってください!」

「おう」

こんな感じで、女性に声を掛けられる姿をよく見かける。だけど、断り方がスマートで、女性に辛そうな顔をさせないのだ。

「どうした?相談か?」

彼を見つめていたのが、バレた。優しく声を掛けてくれる。

「い、いえ。何でもありません!」

「そう?」

「はい」

集中。集中。
私は再び、パソコンに向き合う。
仕事ぐらいでしか、彼の役に立てないのだから。

憧れの彼がこうして、話掛けてくれるのは、たまたま隣の席に同期がいるから。
そんな素敵な人が私に優しくするなんて、奇跡でしかないんだから。

あがり症で、地味で、人付き合いが苦手な私は、心の中で芽生えている想いに見て見ぬふりをしていたんだ。