そんな私に奇跡は舞い降りた。

一社から内定を頂いたのだ。それも、あの素敵な声の彼がいた、あの会社から。

ようやく、ほっとしたのと同時に。
あの時の彼も受かってたりするかな?会社であの声が聞けたらいいな。

なーんて、思っていたんだよね。学生時代の私は。

まさか、同じ会社で、まさか同じ部署で、席まで隣だなんて、想像すらしなかった。

「糸川さん。お疲れ様」

「お疲れ様です……あ」

同期なのだからタメで行こうよと、この間言われたばかりなのに、また敬語をつけてしまった。
目の前の彼は可笑しそうに微笑んでいる。

「相変わらずだな。糸川さん」

「……ごめんなさい。気をつけてるんだけど」

「いいよ。ゆっくりで」

素敵な声の持ち主、元原 誠也(もとはら せいや)さんは、今日も優しく微笑む。

「あ、そうだ。これ。頑張ってるから」

元原くんが、私の机にそっと置いたのは、私が大好きなミルクチョコレートだ。

「え、いいんですか?」

「今やってる資料、俺が急ぎで頼んだものだろ?これ、お詫び」

元原さんが言う通り、今私がやっているのは、元原さんから頼まれたものだ。仕事をするのは当然なのに、元原さんはいつも気遣いを忘れない。

「ありがとうございます」

「"ございます"は要らないからね」

「あ」