「元原さん……待って」
2人で歩くことに慣れた帰り道。
アルコールを一滴も飲まなかった彼は、スタスタ歩く。いつもなら、私の歩調に合わせてくれるのに。
「元原さん……!」
叫ぶと彼がピタリと止まった。
「……なぁ」
「はい」
「何で"元原さん"なの?」
振り返らないまま、呟いた元原さんの言葉に私は首を傾げる。
元原さんは元原さんなのに。
「どういう意味ですか?」
私が尋ねると、元原さんはクルッと振り返り、不機嫌そうに眉を寄せた。
「だーかーら」
「……?」
「三田は"みたっち"だし、明美は"明美ちゃん"なのに、何で、俺はいつまでも、元原さんなんだ?」
……そんなこと、気にしていたの?
私が他の同期のように、あだ名で呼ばないこと。
「なんかさ。糸川さんに、溝を作られているみたいに感じる」
「え?」
暗闇の中でも、彼の顔はどこか辛そうで。
「溝なんて……そんなつもりは……」
「じゃあ、なんで?」


