幸いにも、女の子は他の被害者に比べて軽傷で済んだらしい。軽傷といっても、頭と顔を手で殴られて頬は腫れ上がり、片足の膝を鉄の棒で打たれて、骨折はしていないもののしばらく歩けない状態になっているとのことだった。
教室で先生からこの話を聞いて、クラス全体が静まりかえった。先生の話によると、女の子は、夜にひと気の少ない道を歩いているとき、男子高校生の時と同じ手口で大きな布をいきなり被せられて、被害にあったらしい。先生は、くれぐれも夜、夜でなくても人があまり通らない道は歩かないこと、と念を押して注告した。

昼休みになると、いつもだったら給食を食べ終わったあとすぐに男子みんなでグラウンドでサッカーをしていたけど、この日はそんな気分じゃなかったから、それぞれ散らばって好きに過ごしていた。
ボクは、かずまが話があるというから、校舎裏を歩いてグラウンドの脇の芝生のところまで行って、そのへんの木陰に座った。かずまは、誰も聞いている人がいないか落ち着きなくあたりをきょろきょろと見回して確認してから、ボクに小声で言った。
「あのさ、おれ、犯人がどんなやつか知ってるんだ。」
ボクは驚いて、かずまの顔をジッと見つめた。
「父さんが、昨日の夜、教えてくれたんだ。本当はまだ警察の中だけに留めていなきゃいけない情報だけど、お前が心配だから知っておいてほしいって。」
「被害者の6年の女子いるだろ?そいつから、有力な証言があったんだ。犯人は、小学生くらいの、小さな痩せた男子かもしれないって。」
ボクの心臓は急に緊張して、ドクンと脈打った。
「女子が言うには、日曜に友達の家に遊びに行く途中、灰色のパーカーを来た背が低めの痩せた男子が険しい目つきで反対方向から歩いてきたらしい。すれ違ったあとキーホルダーが道に落ちてたから、迷ったけど、呼び止めてそいつが落としたものかどうか聞いたんだ。するとそいつはキーホルダーを奪うように取ってにらみつけてきたから、女子は『そんなに怖い顔してたら、幸せ逃げちゃうよ』って笑って言った。そしたら男子は、ものすごい形相で『お前、殺されてえのか』って呟いて、去っていった。そのあと友達の家からの帰り道に、襲われたらしい。」
ボクは、青ざめて、心臓の鼓動がどんどん早くなるのを感じた。
「でもさ、それだけじゃ、その小学生くらいの男子が犯人だって証拠にならないんじゃない?たまたまその子が機嫌が悪いところに会っちゃっただけで、 そのあとに犯行があったからといって...。 」
「いや、それが、まじで相当ヤバい感じのやつだったらしい。狂った目をしてたって。それに、先生も言ってたとおり、頭と顔を殴られたときは、棒じゃなくて、素手だったんだ。被害者の女子が襲われたときのことを思い出してみると、感覚的に、大人の手ほど大きくなかったらしい。かなり小柄な女か、子どもだ。傷の状態からしても、大人の男が思い切り殴ってたら、もっと悲惨なことになってただろうからな。」
ボクは、胸が締め付けられて、苦しくなってきた。
「まあ、それでも確かに殴られたときのことなんか実際わかるわけないし、他の事実がはっきりしてないから、まだまだ調査中なんだけどな。父さんは、『自分の管轄じゃないのに、仲のいい同僚から内密に教えてもらった情報だから、絶対に誰にも言うな』だってさ。だから、お前も絶対に誰にも言うなよ。ヤバい、もう時間だ。」
ほとんど話の最後の方は耳に入らないで、頭が真っ白になりながら、ボクは一つ尋ねた。
「あのさ...その男の子の持ってた、キーホルダーの形って、どんな形か聞いた?」
かずまは、足についた草を手で払いながら、立ち上がって行った。
「流れ星だよ。」


昼休みの終わりを告げるチャイムが、鳴った。