第1の被害者は、ごく普通の一般家庭を持つ40代のサラリーマン男性だった。飲み会の帰りに、最終のバスを降りて帰宅している途中、何者かに鈍器で右腕上腕と横腹、背中を強打され、数ヶ所骨折して倒れた。幸い外傷のみですんだけど、状態が悪ければ肝臓などの内臓損傷や足の機能不全といった後遺症を残す危険もあった。本人は泥酔していたので、犯人の顔も特徴も何も覚えていないという。

事件のことは、朝のテレビニュースで知った。犯行現場が隣町だったので、ご飯を食べながらテレビを見ていたボクとお父さんは驚いてハシの動きをを止めた。キッチンから、お母さんの小さな叫び声が聞こえてきた。
お母さんは、いつものように玄関でお見送りしてくれたとき、お父さんには「今後飲み会は全て断ってすぐ帰ってくるように」、ボクには「夕方4時前には必ず家に帰るように」というかなり厳しい訓示を言い渡した。
学校でも先生から、外出時は気をつけるように注意を受けた。


1ヶ月ほど経った頃に、再び事件は起こった。
今度の被害者は、夜遊びをしていた男子高校生2人組だった。深夜にコンビニの裏にある狭い駐車場の端でたむろをしていると、何者かに金属の棒のようなもので頭部や体を打たれて、重傷を負ったらしい。コンビニのアルバイト従業員がゴミ出しに店の裏に回ったとき、暗がりのなか倒れている人影を見つけて、警察に通報したという。
被害者の証言では、駐車場の角の縁石に1人が立ち、1人が座りながら話し込んでいたところ、立っていた方の男子が何者かに後頭部を殴られて前のめりになって倒れ込んできたので、もう1人が驚いて立ち上がり振り向こうとした瞬間、大きな布が被さってきて全身を覆い、何も見えないなか細い鉄の棒のようなもので体を数箇所叩かれたということだった。後頭部を殴られた男子学生は意識不明の重体、もう1人の方は肩や足などを複雑骨折して、入院している。

犯行現場は、前とは違う隣町で、またもや犯人に関する情報は皆無に等しかった。最後に被害にあった男子高校生は、布で視界を遮られると、まず足を叩かれ、痛みでうずくまっている間に肩や背中を数回叩かれて、犯人が去った時には地面に倒れて全く動けず布を払うこともできなかったという。目撃者はいなく、近辺の防犯カメラでも怪しげな人物は見つからなかったため、犯人の特徴は年齢も性別も何もかも不明だった。これはさすがに全国の新聞やテレビで何度も取り上げられて、スクープになっていた。
夜、ボクが毎週必ず見ているアニメを見終わって、夕飯が出るまでソファに座りながらなんとなくテレビのチャンネルを変えていると、顔が隠れていたけど画面にボクの知っているクラスメイトのお母さんらしき人が出てきて、「外を出歩くのが怖い、家族が心配。早く犯人が見つかってほしい。」と、不安な声でインタビューに答えていた。

第3の被害者は、男子高校生の事件のほとぼりが冷める前に、その一週間後に報道された。
この事件は、ボクや周りの人みんなを極度の恐怖におとしいれた。

被害者は、ボクと同じ小学校の6年生の女の子だった。

そして、この時から、ボクの運命の歯車は一気に回り始めた。