ボクの家の周りは住宅街で、近くの公園と裏山が唯一の遊び場だった。住宅街を抜けて、田んぼや野原の間にある一本道を進んでいくと、街の中心部に入って、スーパーとかショッピングモールとか大きな建物がちらほらと出てくる。自転車で行けば中心部までそんなに時間はかからないけど、行ったところでお金もないし、近所で友達と虫取りやゲームをしてる方がよっぽど楽しかった。
裏山には、昔からある古い神社があった。
入り口が見つかりにくいけど、ここの辺りに住んでいる人はみんな知っていて、お正月のときだけ参拝しにきた人たちで溢れかえる。普段は、寺の僧侶とかもいないから、たまに管理人のおじいさんが掃除をしにくるくらいで、全くひと気がない。神社の階段を登りきったところから見る景色は見晴らしがよくて、天体観測マニアのボクや仲間にとって、夜、星がよく見えるここの場所は、隠れた神聖な聖地で、大好きだった。
息苦しくて、真夜中に、ボクは目が覚めた。
ひどく汗をかいていて、妙な胸騒ぎがした。
カーテンを開けて外を見ると、こんな時間に、ほとんど暗闇のなか大人たちが数人どこかへ走っていくのが見えた。バルコニーに出て通路を眺めていると、また一人、裏山の方へ走っていくのが見えた。夜中に出歩いたらいけないのはわかっていたけど、何か大変なことが起こっているのがボクにもわかったから、居ても立っても居られなくなって、外に出て、裏山へ向かった。2階の自分の部屋から階段を降りて玄関に行く途中、リビングのドアから明かりが漏れていたから、お父さんお母さんにバレないように忍び足で、こっそり家を出た。
裏山に近づくにつれて、煙の匂いがしてきた。なんだか嫌な予感がした。
前方に走っている人を見つけて、ついていくと、だんだんと騒がしい声が近づいてきて、その場所が、自分の頭のなかにあった場所と同じ場所だったことがわかった。
神社が、燃えていた。
階段下の道路に、消防車が止まっていて、その中から長いホースが数本、階段の上の方へと伸びていた。
あたりには、騒ぎを聞きつけた大人たちが、たくさん集まっていて、驚きと不安で不穏な空気が漂っていた。
見上げると、階段の最上段にある、神社の入り口の鳥居が、真っ赤に燃えていた。ホースを持った消防隊員たちが鳥居に向けて水を噴射していて、しばらくすると、形が崩れて焼け焦げた真っ黒な柱が残った。奥にある寺の方からもずっと、黒い煙が立ち込めているのが見えた。
「全焼だな。」
横にいるおじさんがうなだれて呟いた。
ボクは、信じられなかった。どうして、こんなことになっているのか、頭がボーっとして何も考えられなくて、その場から動けずに上を見上げ続けていた。
ふと、小さい人影が目の端に映った。いるはずのない子どもが、大人たちの間をすり抜けて、道路を反対方向へ歩いて行った。横のおじさんに気づかれて、「君、一人できたの?危ないから、帰りなさい。」と声をかけられたときには、ボクはもう駆け出していた。
あの後ろ姿を、ボクは知っている。
何人かの人にぶつかりながら人混みをかき分けてやっとのこと抜け出し、道路の先を見ると、少年はもうどこかへ消えていた。でも、ボクには誰かはっきりわかっていた。両手をポケットに入れながら、前のめりになって素早く歩く、あの後ろ姿
ーつよし君だ。
次の日、学校ではその話題で持ちきりだった。
みんなにとって、あの神社は小さい頃から馴染みのある場所で、年に1度しか行かないけれど、家族や友達と新年を迎える、大切な思い出の場所だった。かずまが、警察の調べでは、出火場所などから考えてほぼ100%放火によるものなんだって、教えてくれた。かずまのお父さんは警察官で、ボクらの地区は担当していないけど、公にしてもいい情報をたまに家族に伝えるらしい。
「父さんが、犯人は恐らくすぐに見つからないだろうから、気をつけろだってさ。」
朝と夕方にテレビのニュースにも出たが、数秒間、消防隊員が消火活動をしている映像が流れただけで、すぐ次のニュースに映った。
ーこんなへんぴな町の出来事なんて、世間ではきっとすぐ忘れられてしまうんだ。
ボクは、怒りが込み上げてきた。
誰が、どうしてこんなことをしたんだ?
絶対に許せない。警察の捜索なんて、また数日間でやめてしまうんだから、当てにならない。
ボクが町内を探し回って突き止めてやろうかとも思ったけど、やっぱり無謀だし、実際に犯行現場を見つけて放火犯に目をつけられてしまったらと思うと、そんな勇気は出なかった。
裏山には、昔からある古い神社があった。
入り口が見つかりにくいけど、ここの辺りに住んでいる人はみんな知っていて、お正月のときだけ参拝しにきた人たちで溢れかえる。普段は、寺の僧侶とかもいないから、たまに管理人のおじいさんが掃除をしにくるくらいで、全くひと気がない。神社の階段を登りきったところから見る景色は見晴らしがよくて、天体観測マニアのボクや仲間にとって、夜、星がよく見えるここの場所は、隠れた神聖な聖地で、大好きだった。
息苦しくて、真夜中に、ボクは目が覚めた。
ひどく汗をかいていて、妙な胸騒ぎがした。
カーテンを開けて外を見ると、こんな時間に、ほとんど暗闇のなか大人たちが数人どこかへ走っていくのが見えた。バルコニーに出て通路を眺めていると、また一人、裏山の方へ走っていくのが見えた。夜中に出歩いたらいけないのはわかっていたけど、何か大変なことが起こっているのがボクにもわかったから、居ても立っても居られなくなって、外に出て、裏山へ向かった。2階の自分の部屋から階段を降りて玄関に行く途中、リビングのドアから明かりが漏れていたから、お父さんお母さんにバレないように忍び足で、こっそり家を出た。
裏山に近づくにつれて、煙の匂いがしてきた。なんだか嫌な予感がした。
前方に走っている人を見つけて、ついていくと、だんだんと騒がしい声が近づいてきて、その場所が、自分の頭のなかにあった場所と同じ場所だったことがわかった。
神社が、燃えていた。
階段下の道路に、消防車が止まっていて、その中から長いホースが数本、階段の上の方へと伸びていた。
あたりには、騒ぎを聞きつけた大人たちが、たくさん集まっていて、驚きと不安で不穏な空気が漂っていた。
見上げると、階段の最上段にある、神社の入り口の鳥居が、真っ赤に燃えていた。ホースを持った消防隊員たちが鳥居に向けて水を噴射していて、しばらくすると、形が崩れて焼け焦げた真っ黒な柱が残った。奥にある寺の方からもずっと、黒い煙が立ち込めているのが見えた。
「全焼だな。」
横にいるおじさんがうなだれて呟いた。
ボクは、信じられなかった。どうして、こんなことになっているのか、頭がボーっとして何も考えられなくて、その場から動けずに上を見上げ続けていた。
ふと、小さい人影が目の端に映った。いるはずのない子どもが、大人たちの間をすり抜けて、道路を反対方向へ歩いて行った。横のおじさんに気づかれて、「君、一人できたの?危ないから、帰りなさい。」と声をかけられたときには、ボクはもう駆け出していた。
あの後ろ姿を、ボクは知っている。
何人かの人にぶつかりながら人混みをかき分けてやっとのこと抜け出し、道路の先を見ると、少年はもうどこかへ消えていた。でも、ボクには誰かはっきりわかっていた。両手をポケットに入れながら、前のめりになって素早く歩く、あの後ろ姿
ーつよし君だ。
次の日、学校ではその話題で持ちきりだった。
みんなにとって、あの神社は小さい頃から馴染みのある場所で、年に1度しか行かないけれど、家族や友達と新年を迎える、大切な思い出の場所だった。かずまが、警察の調べでは、出火場所などから考えてほぼ100%放火によるものなんだって、教えてくれた。かずまのお父さんは警察官で、ボクらの地区は担当していないけど、公にしてもいい情報をたまに家族に伝えるらしい。
「父さんが、犯人は恐らくすぐに見つからないだろうから、気をつけろだってさ。」
朝と夕方にテレビのニュースにも出たが、数秒間、消防隊員が消火活動をしている映像が流れただけで、すぐ次のニュースに映った。
ーこんなへんぴな町の出来事なんて、世間ではきっとすぐ忘れられてしまうんだ。
ボクは、怒りが込み上げてきた。
誰が、どうしてこんなことをしたんだ?
絶対に許せない。警察の捜索なんて、また数日間でやめてしまうんだから、当てにならない。
ボクが町内を探し回って突き止めてやろうかとも思ったけど、やっぱり無謀だし、実際に犯行現場を見つけて放火犯に目をつけられてしまったらと思うと、そんな勇気は出なかった。
