「これ、合鍵な」



そう言って渡された鍵はなぜか三種類もある…。



カードキーが二つと普通の鍵が一つ。





「弘はこんな職業だから一応ね。そっちのカードキーがエントランス用で残りの二つが部屋用だよ」





「はーい…」





「あと、このマンション弘以外は住んでないから他のフロアも好きに使ってくれていいからね」





「…はーい…」





「なんか質問とかある?」





「いや…大丈夫かな…」





「そ。じゃあ俺はこれで。どっかの馬鹿上司のせいで仕事溜まってんだよね」





笑って手を振って高巳は帰ってしまった。




質問したいことなんて山ほどあるけど、これはもう目を瞑ろう…。




そう思いながら弘翔とエレベーターで5階まで上がった。








「──入って」





ドアを開けてもらって部屋に入ると、想像してたよりも遥かに広かった…。





「広すぎない…?」





「んーそうか?」





「一人で住んでたんでしょ?」





「いろんな奴がしょっちゅう勝手に来るからなぁ」





呑気にそんなことを言ってる弘翔。




いや、一人暮らしにしては広すぎだから!!




絶対、使ってない部屋とかあるでしょ!!





リビングに足を踏み入れると、半端なく広かった。




テレビも馬鹿デカいし、中央に置かれている革張りのソファもガラス製のテーブルもデカい…。




テレビ台の横にはワインセラーが置かれていて、中には年代物のワインや高級なものまで様々なワインが入ってる。





「ワイン、好きなの?」





「あぁ。兄貴が世界中から色んなワイン買って帰って来るんだよ」





「そうなんだ…ワインセラーまであるって凄いね…」





「旅行に行くたびに酒買って帰って来るから、置き場所がないからいらないって言ったことがあってな。次の日にワインセラーと地ビール用の冷蔵庫が送られてきた。兄貴は俺に甘いんだよ」





そう言いながら笑う弘翔を見て思う。




みんなが言うように弘翔もお兄さんもブラコンなんだなって、少し思った。









──カウンターキッチンで、調理器具も全部揃っていた。





「弘翔、料理できるの?」






「一通り作れるぞ。姉貴たちにガキの頃から仕込まれてる」






「そうなんだ~」






「飯は当番制な」






「えっ?」






「俺が全部作ってもいいんだが、美紅の飯食べたいから許してくれ」






「え、いいよ。私が全部作るよ。弘翔は仕事で忙しいし…私、女だし」






「何言ってんだ。忙しいのは大学ある美紅も同じだろ。それに女が家事しなきゃいけないってのもおかしい。秋庭じゃ、組長も若頭も幹部も関係なく飯は当番制で男が作るぞ」






「え、ホント?」






「『どちらかといえば女尊男卑』ってのが秋庭組の家訓なんだよ」






「なにそれ…!」




思わず笑ってしまった。




極道って男の世界じゃないの…?







「『男だろうが女だろうが、女がいなきゃ産まれてない。大事なことを見失う奴は男でも極道でもない。極道としての仁義を貫く前に、男として一本筋を通せ』ってのが初代組長から続く教えなんだ」







だから…






「秋庭の男は女に甘いし独占欲も強い。
心底惚れてる女なら尚更だろう?覚悟しろよ、美紅」







俺に死ぬほど甘やかされる覚悟と





俺の独占欲を受け入れる覚悟を。