大切なものを選ぶこと




美紅がおぼつかない動作でジョッキに口をつけようとしたその時──




慌ただしい足音と共に個室のドアがスッと開いた。





入ってきた人物にみんなの視線が一斉に向いた…けど、入ってきた人物はそんな視線を全く気にすることなく美紅の所へ歩みを進めた。







「全力で走ってきたから喉乾いて死にそうなんだ。美紅、それもらっていいか?」





電話と同じ…低くて甘い、少し掠れた声…。





一連の流れが様になりすぎていて呆気に取られていたけど…この人やっぱりヤバい…。




美紅からジョッキを受け取って一気に飲み始めた男の人…いや、秋庭さんの破壊力は半端なかった。





180㎝あるって自慢していたナルシストよりも高い身長に、読モをしている二人なんか比にならないくらい整った容姿。




そして…




「帰ろう、美紅」





ものの数秒でジョッキの中身を飲み干して、美紅にだけ向けられる柔らかい顔。




その一挙一動、なにをとっても美紅の彼氏様は半端なかった。







「あっ…あの…秋庭さんですか?」





この誰も話しかけられない空気の中で秋庭さんに声を掛けた私を誰か褒めてほしい。





秋庭さんの姿を確認するなり安心しきって本格的に寝入ってしまった美紅にジャケットを掛けていた秋庭さんは、私の言葉に『ん?』と反応してくれた。







「さっき電話した者なんですけど…美紅のことこんな状態にしちゃってホントすいません!」





「美紅のこと誘っちゃったのあたしなんです…すみません…」





私と由美子が申し訳なさすぎて頭を下げると、





「いやいやいや…二人は何も悪くないですから顔上げてください。これじゃ、おっさんが若い女の子いじめてるみたいでしょ?」




と困ったように言ってから、優しく笑ってくれた。






「えっと…由美子さんと真希さん、そっちが加奈さん?いつも美紅から話は聞いてます。俺が妬けちゃうくらい仲が良いみたいで、羨ましいです」





「「「えっ??」」」





秋庭さんの言葉に私たちは思わずハモッてしまった。





そんな私たちを見て小さく笑った秋庭さんは、少しだけ照れたような顔をしてから、





「美紅の前じゃ格好つけてるから言わないけど…実は嫉妬深いんですよ俺」





と破壊力が強すぎるイケボ付きで言った。





待って、美紅の彼氏様ホントに色々とヤバい。






「あのー…じゃあ、もしかして今日も美紅が合コンに行くの反対だったんですか…?」





由美子が聞くと、秋庭さんは少し考える素振りをしてから、






「んー…内緒」




格好悪いから







小さく呟いてから、照れたように笑った。






美紅…私だけが好きみたいだなんて、軽々しく言うもんじゃないよ…。