「いきなり知らない男に話しかけられたら、そりゃ不快だよな。
いや、本当に悪かった」
本気で焦っている男性が立ち上がろうとしたから、慌てて彼の袖を掴んだ。
「……ッ、違うんです!」
「へ?」
やっとの思いで絞り出した言葉に、男性は一瞬だけぽかんとしてから、ホッと息をついた。
クシャリと前髪をかき上げてからベンチに腰を落とした。
その姿もいちいち様になりすぎてて怖い…
「焦った…。俺、なんかまずいこと言ったのかと…」
そう言って笑ってから、‘はい’とハンカチを差し出してくれた。
「え、いや、大丈夫です!使えませんよ…」
「使って。
新品だから、汚くないぞ?」
「いや…でも…」
「男だからさ、カッコつけさせてよ」
そう言われてしまえば受け取らないわけにもいかず、有難く使わせてもらった。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
それから何となく気まずくてお互いに沈黙が続いた。
──目を閉じて、何かを考えているような感じだった男の人はゆっくりと目を開けてから、真っ直ぐに私を見た。
