「何も言わなくていいよ。辛かったことなんか、わざわざ思い出して言葉にする必要なんかない」





「ッッ、」





「代わりに…いっぱい泣きな。我慢なんかしなくていい。辛かったら辛いって言っていい」









ずっと…ずっと…辛かった。




いっぱい人に迷惑をかけた私が辛いなんて言っちゃいけないと思ってて、我慢して強がっていたけど…ずっと辛かった。








「ッッ、な、つき…さん…、…」





白衣を脱いだ夏樹さんは優しいお兄ちゃんみたいな雰囲気で、優しくて暖かくて…溜めていたものが止められなかった。







「秋庭さんには…ッッ、言わないで…」





「うん。わかってるよ」





「怖かった…好きじゃない悠太に抱かれるのも…殴られるのも…ずっと怖かったッッ!」






こんなこと秋庭さんには絶対に言えない。




それに…悠太に無理やり抱かれたことなんか好きな人には知られたくない。





だけど…ずっと…辛かった。




思いっきり泣きたかった。






「怖かった…怖くて、辛くて…苦しかった…」





「うん」






夏樹さんに背中をさすってもらいながら声にならない声で泣いた。




10分だろうか、30分だろうか、1時間だろうか…





私が泣き止むまで夏樹さんは何も言わず私の背中をさすり続けてくれた。









───散々泣いて、汚くなった顔をあげると夏樹さんにハンカチを差し出された。






「うわっ、美人が台無しじゃないの~」





「ッッ、うるさい…です」





言って…笑った。





悠太とのことは全部なかったことになんかできないけれど、少し心が軽くなった。







「美紅ちゃん」





「……はい」





「泣くことも弱音を吐くことも、苦しいことを口に出すのも悪いことなんかじゃない。泣きたくなったらいつでもおいで」





「……はい…」






そう言って白衣を着直した夏樹さんは、やっぱり緩い雰囲気に戻っていて…思わず笑ってしまった。








そして…ちょうどいいタイミングで秋庭さんが戻ってきた。





泣き顔の私を見て秋庭さんは血相変えて夏樹さんの胸倉を掴んだけど、






「なんだよ弘、美紅ちゃんと友達になってお茶してたとこなんだけど~」





という夏樹さんの緩すぎる言葉と態度にさっきまでのギャップで私が大爆笑してしまい、秋庭さんは安心したような表情で腕を下ろした。