─柊稜真side─






「待たせたな」





「別に待ってなどいませんよ」










都内某所




店先にはcloseの看板が掲げられているBARのカウンターで、優雅にウイスキーグラスを傾けている男に声を掛ける。



この店もたしかコイツの店だったか。







「それ、なんや」





「バルヴェニーの30年ものでしたかね」






「スコッチかい。
それも、また癖の強いヤツを…。飲み方は?」






「さぁ?」






「マスター、僕もコイツと同じやつを」







出された酒に口をつけて、少し後悔。



ニートかい…この野郎。




さっき宴会で死ぬほど酒を喰らったのにこの男は…






「一本どうです?稜真」





「絶賛禁煙中やから遠慮しとくわ」





「禁煙?ヘビースモーカーの君がですか…」





「奥さんが妊娠中やからな」





「あぁ、そうでしたね。
では私も今日は控えておきましょうか」





「別に吸ってええよ」





「禁煙中の男を前に堂々と吸える神経は持ち合わせていませんよ」





「蓮のそういうとこ、ほんま好きやで」





「どうも」





「…………。」




「…………。」




「…………。」






「弘翔もそうですが、愛の力は偉大ですね」





「はぁ?なんやそれ」






「君も弘翔も、大切な人ができてから変わりましたから」





「……誰だってそんなもんやろ」






「私には理解できない感覚です。
誰かの為に生きられる人は尊敬しますよ」





「弘の為だけに生きとるお前が何言ってんねん。そんなんなくても僕は10代の出会った時からお前のことは尊敬しとるで」





「酔ってます?」





「そりゃお前やろ」





「酒にはそれなりに強い自信があったんですけどね」





「…………。」




「…………。」





「あの子、悪い子やないと思うで」





「そうですね。それは私も思います」





「どうするつもりなん?普通の子なんやろ」





「どうしましょうか」





「誤魔化すなや」





「…相変わらず鋭い男ですね君は」





「…………。」




「…………。」




「…………。」





「君なら…なんとなく分かっているんでしょう?」






「蓮との付き合いだけなら弘よりも長いからな。それに…お前が弘の為に全てを懸ける男だってことはよう知っとるで」






だから…




「察しはついとるよ」






「なるほど。君がプライベートの番号を教えていたのでまさかとは思いましたが…流石ですね、稜真」





「別に弘の為でも…あの子の為でもない。お前のためやで、蓮」






「…………。」




「………。」








「男がその腕で守れるものはせいぜい一つです。
私には、弘翔に正しい選択をさせる責任がありますから」







たとえ、一生恨まれることになろうとも。


たとえ、最愛の男に殺されることになろうとも。








「まさかとは思っとったが…蓮、お前…
弘には僕と真逆の道を進ませる気か?」







「察しが良すぎる親友を持つのも大変ですね」