「愛してるよ」
「…ッッ、さっきも聞いたよ……」
「そうだな。さっきも言ったな」
だから、そんな穏やかな声で言うな。
私が一番欲しい言葉を…そんな風に、当然だろって、何言ってんだって、当たり前だろって、普通のことのように言うな。
泣きたくなる。
弘翔が私のことを大事にしてくれていることなんか、私が一番よくわかってるに決まってるじゃないか。
当然の顔して「愛してる」と言ってくれるように、私だって弘翔に愛されてるのを疑ってなんかいない。
どうしたらいいのかなんて決まってるのに、それを口に出して弘翔に拒絶されるのが怖い。
私の考えていることが重いって思われるのが嫌で、遠距離でもいいとか、地元に戻れとか言われるのが嫌で。
誰に何を言われても一緒に居たい。
だけど、弘翔が同じ想いじゃなかったら…って考えると怖くて仕方ない。
「卒業後…私たちどうなるのかな…」
弘翔の職業をお父さんが許してくれるわけがない。
知られたら地元に連れ戻されるのは間違いない。
だからって、弘翔に極道の世界から足を洗ってほしいと思ってるわけではないし、そんな簡単な事じゃないのも分かっている。
「月3万の小遣い制でいいぞ俺は」
「…………。」
「…………。」
「はぁ!?」
人が真剣に話してるのに何を言ってるんだこの人は…?
あまりにも意味不明すぎて素っ頓狂な声が出てしまった。
『なんだ多いか?じゃあ2万でもいいぞ』じゃない。
しかも冷静に考えて月3万円でも少ないでしょ。あなたどれだけ稼いでるのよ…。
「あのー…弘翔さん…?」
「ん?」
「おっしゃってる意味が…」
「俺と一緒に居る理由が欲しいんだろ」
断言されて気付く。
そっか、そうだったんだ…。
私が悩んでいたのは卒業後も弘翔と一緒に居るための理由か。
付き合ってるっていう理由だけじゃずっと一緒にはいられない。
「一人で悩ませてごめんな。もっと早く言うべきだった」
「…………。」
「俺の職が美紅の両親や身内に受け入れてもらえないってのは分かってる。正直、俺自身もどうするのが最善なのか答えが出てない」
俺が美紅の両親の立場でも、極道なんか許さないよ。
はっきり言われて、我慢していたものが崩壊した。
静かに背中から降ろされて、軽く腕を引いてくれた弘翔の胸に顔を埋めて泣いた。
どうにもならない事なのかもしれないって、お父さんは一生許してくれないかもって、弘翔と一緒になることはできないのかもしれないって、全部わかってる…。
分かってるけど…
私は…この人と一緒に居たい…
ずっと、ずっと一緒に居たい。
弘翔が小さく笑ったのが、抱きしめてくれた腕越しに伝わった。
「これから先、結婚を前提に一緒にいてくれませんか」
難しい理屈は抜きだ
「俺と美紅が一緒にいる理由なんて、それだけで足りるだろ」