「重いでしょ…?」
「んー?全然」
半ば無理やりおんぶされることになってしまったけど…。
重くないのか不安になってしまう。
──「で、美紅。俺に言いたいことがあるんだろ?」
「えっ…?」
「好きな女のことだ。見てればすぐにわかる」
背中越しだけど、小さく弘翔が笑ったのが伝わる。
私が悩んでいたことにはやっぱり気付いていたらしい。
気付いていて、何も知らないふりをしてくれていた。私はこの人のこういうところが堪らなく好きなんだ。
人の機微に恐ろしく敏感で、優しくて、そして甘い。
私が何を言ってもこの人は受け入れてくれて、真剣に聞いてくれる。
「弘翔は…私のこと、好き?」
唐突な問いに、弘翔が歩くのを止めた。
降ろしてもらえるかな…と思ったけど、おんぶは継続らしい。
「愛してるよ」
「…………。」
「なんだ、別れ話か?」
「違うよ!」
「そうか、それはよかった」
別れたいと懇願されても別れてやるつもりなんか毛頭ないけどな。
聞きたかっただけ。
弘翔の気持ちは最初から微塵も疑ってない。
「私…夏休みからちゃんと就活しようかなって思ってる…」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
何も答えずに弘翔はまた歩き出した。
無視しているわけじゃない。
この雰囲気は…本気で悩んでいる時のそれだ。
「何かやりたいことがあるのか?」
「そういう訳じゃないけど…」
なりたいものや就きたい職がある訳ではない。
ただ、卒業後の自分が想像できなくて…
「卒業して、働かないなら…私…東京にいる意味が無くなっちゃう」
あくまでも今は大学の為に上京してきていて、大学の為に都内にいるんだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
もし卒業してちゃんと就職しないなら、私には弘翔と住む理由がなくなってしまう。
「なぁ、美紅」
諭すような優しい口調で弘翔が口を開く。
