タクシーは使わずに電車に乗り、駅からは二人で他愛もない話をしながら歩く。




「単位は大丈夫そうか?」



含み笑いで聞かれたので背中をおもいきり叩いてやった。


『痛いなー』と笑っているけど、全く痛くなんかないでしょ。



せっかくお祭りと花火で気分が上がってたのに現実的な話をしないでほしい。



単位かぁ…単位。
売ってないかな、単位。


必修とか落としたらどうしようホントに。笑えないんだけど…




「今それ聞く…?」




「来週からテストだろ。がんばれよーっていう激励だ」




笑いながら言うな!


睨んでやれば、肩を竦めてまたしても小さく笑われる。


そのまま優しく頭を撫でてくるからたちが悪い。




「別に心配はしてないよ」


良い顔でそういう風に言われると弱い。




秋から本格的に就活をするためにも前期の単位は落としちゃいけないことはよくわかってる。


多分、普通にやれば落とさないこともわかってる。



あぁ…そうだった。
弘翔とちゃんと話をしないとだ。






──「美紅、ほら」



私が考えている間に何故か弘翔は私の前に片膝をついていた。



これは…おぶされという意味だろうか…




「な、なんで!?」




「下駄、そろそろ痛いだろ。慣れてないと擦れるからな」



どうやら靴擦れして足が痛かったのがバレていたらしい。


ほんと、この人に隠し事はできそうにない。




「いや、いいよ!重いし!」




「軽いから大丈夫だ」




「大丈夫じゃない!」




「仕方ない…。横抱きにされるかおんぶされるか選べ」




「なんで二者択一なの!?」




出会った時から何も変わらず、この人は私の話を聞かないらしい。しかもこういう時だけ。


いつもは私のいう事なんでも聞いてくれるくらい激甘なくせに、こういう時だけは全く聞かない…。



思えば、いつかも無理やりお姫様抱っこされた…。しかも二回も…。




「どっちか早く選べ」




やる…
この人は確実にやる…。


マジでここでお姫様抱っこされてしまう…



ならば…




「おんぶでお願いしまーす…」