大切なものを選ぶこと




──そのあとのことは正直、面白かったとしか言えない。



そして…人があんなに必死に土下座するところを人生で初めて見た。



震える声と泣きそうな表情で頭を下げる彼らに対して弘翔は





「男に二言はない、今ここで消えれば見なかったことにしてやる。失せろ」




それだけ言って、男たちが逃げるように去っていくのを黙って見ていた。





「よかったの?」




「んー?良くはないなぁ。兄貴にバレたら小言をもらうな」




だが、




「俺の今の優先順位は美紅とのデートだからな。余計な時間を割かれるくらいなら、後で大人しく小言を頂戴するよ」





先ほどまでの殺伐とした雰囲気は皆無で、いつもの見慣れた顔で笑う弘翔。



極道の男としての弘翔ももちろん好きだしゾクゾクする格好良さがあるけど、私にだけ甘い彼氏モードの弘翔の方がやっぱり好きだ。





「大丈夫だったか?」



地を這うような声ではなく、低くて少し掠れている甘い声。



あぁ…やっぱ好きだな…





「少し怖かったけど大丈夫…」




いや、男の人に腕を掴まれた時は死ぬほど怖かった。



だけど弘翔が来てくれてからはいつの間にか安心しきっていた。



普通に弘翔の後ろで笑っちゃってたし…



弘翔が来たから大丈夫だって。
弘翔の背中には絶対的な安心感がある。




「思ったより仕事が長引いてな。待たせてごめんな」




「ううん、思ったより早く終わっちゃっただけだから」




「他にもナンパされただろ?」




「え?ナンパ?されてないよ!なんかいっぱい声は掛けられたけど…」




笑い飛ばして言えば、何故か盛大に溜息を吐かれた。



解せぬ。





「まぁいいか。美紅のそういうとこ好きだしな」




「へ?」




「それに、ナンパしたくなる男共の気持ちも分からなくもない」




「あのー…弘翔さん?」




「んー?」




「それって…どういう意味ですか…?」





「俺の彼女が凶悪的に可愛いって意味かな」





「……そういうの…ズルいとオモイマス…」





弘翔の言葉に片言になってしまった。



しかも絶対、顔真っ赤だし…!



そんな私を見て、今度は隠しもせずに破顔した彼氏様。
優しく肩を抱き寄せられる。





「浴衣、似合ってる。毎日一緒に居るのに思わず見惚れたよ」




俺は果報者だな。






耳元で、低くて甘い私の大好きな声でそういうことを言うのは…本当ズルい…