わざわざ私なんかに声を掛けるなんて…物好きな人もいるもんだ。
あ、浴衣着ていつもよりはマシになったってことかな…。
出来ることなら少しでも弘翔に見合う女になりたい。
弘翔と一緒に歩いていると周りの視線が一斉に向けられて居たたまれないし引け目を感じてしまう…。
事実、大学でも街中でも聞こえるように『釣り合ってない』と言われることが多い。
弘翔は『気にしなくていい』と言ってくれるけど、浮世絵離れした男前と普通女子大生に過ぎない私が釣り合ってないことくらい自分が一番よく分かっている。
何よりも、私と一緒に居ることで弘翔が変なことを言われるのは耐えられない。
だから、楓さんみたいな美しさや桜さんみたいな可愛さ、葵ちゃんみたいな愛嬌がある訳ではないけど…弘翔の隣を堂々と歩ける女になりたい。
その後も何故か今日は多くの人に声を掛けられた。
『道を教えてほしい』とか『お茶しない?』とか…。『一緒に祭りに行こう』と言われた時にはさすがに鳥肌が立ったけど丁重にお断りした。
色んな人に声を掛けられるのにもそろそろ疲弊してきた…
弘翔早く来ないかなぁ…
「ねぇ君、一人?」
この声は…またしても弘翔ではなかった。
だから、なぜ、私に、声を、掛ける!!
道案内ならスマホを使ってください!
お茶ならしません!
祭りは彼氏と行くんです!
「人を待ってるんで…」
「じゃあ連れが来るまで俺らの相手してよ」
「この子めっちゃレベル高いじゃん!」
レベルってなんだ…。私はポケ〇ンじゃない。
スマホに目を落としていたのでよく見ていなかったけど、声を掛けてきたのは三人連れらしい。
改めてちゃんと見れば…簡潔に言って、非常に柄が悪い。
一人は大量のピアスをしているし、一人は咥えたばこ、そしてもう一人は…
「ちょっと、離してください!」
無理やり、私の腕を掴んできた。
これはヤバい…。
大声を出そうにも恐怖で口が回らない。
「誰を待ってんの?彼氏?」
「ッッ」
「いいよね浴衣の子って。俺めっちゃ興奮するわ~」
「おいおいこんなところで性癖曝露すんなよ」
「こんだけ顔が良ければ浴衣かんけーねえって」
「他の奴らも呼ぶか?」
「何言ってんだよもったいねー。俺らだけで堪能しようぜ」
下品な笑い声が辺りに響く。
通り過ぎる人たちは見て見ぬふりだ。
誰か…助けて…
「この辺ホテル多いから場所変えようぜお嬢ちゃん。おっと、大声出すなよ…殺すぞ」
