─美紅side─
遥輝さんと別れて弘翔との待ち合わせの場所である駅前の公園のベンチに腰を下ろす。
これからのことは卒業したら…か。
弘翔は私とのことをどう考えているのだろうか。
今度話してみようかな。
よし、今日はせっかく聖弥さんに浴衣着付けてもらって遥輝さんに髪をセットしてもらったんだから切り替えよ!
そういえば…待ち合わせ場所に先に弘翔が来てないのって珍しい。
というか初じゃない…?
同棲する前は待ち合わせの30分前には来て待ってたし、同棲してからは大学に迎えに来てくれる以外の待ち合わせはしていない。
やっぱり…弘翔のことを待つのは初めてだ。
大したことじゃないけどテンションが上がる。
それにしても…駅前の公演だからか、人通りが多い。
それに、自意識過剰かもしれないけどなんか多くの視線を感じる…。
え、髪とかほどけてないよね…?
浴衣の帯も曲がったりしてないよね…?
髪がほどけてても帯が曲がってても自分ではどうすることもできないんだけど…。
いや…ホント…なんでこんなに見られてるの…!?
「あのー…」
脳内であたふたしていると同年代ぐらいの男性に声を掛けられた。
やっぱりなんか変なところがあったのかな…
「僕この辺の土地勘なくて…この近くで祭りがあるみたいなんですが場所分かりますか?」
「えっ、すいません!私もこの辺りには詳しくなくて…。他の人に聞いた方が良いかもです…」
「浴衣ってことは…君も祭りに行くんじゃないの?」
「そうなんですけど、この辺は彼氏の実家の近くで…私はあんまり詳しくないんですよ。もう少しで彼が来ると思うんで…待っててくれたら多分教えてくれると思いますよ!」
そこまで言えば、男性は盛大に困惑した表情を浮かべた。
『急いでるなら電話して場所聞きますよ?』と言えば、ますます困った顔をして遠慮された。解せぬ。
男性はそのまま何やら呟きながら立ち去った。
お役に立てず本当に申し訳ない…。
だけど秋庭本家周辺のこの辺りは本当によくわからない。
何度か秋庭家にお邪魔したことはあるけど、毎回純さんの運転する車で連れて来てもらっていたし今日だってここまでは遥輝さんに連れて来てもらったわけで、周りのことはほとんどわからない。
「待ち合わせとかですか?」
「え?」
今度はなんだ…!と身構えてしまったけど、声を掛けてきたのはスーツを着た年上だと思われる男性。
今日はなぜか頻繁に声を掛けられる。
「おひとりなら良かったらお茶でもどうですか?」
「いや、人を待ってて…」
「じゃあお友達が来るまででも」
「あー…友達じゃなくて彼氏を待っているので…」
そう言えば男性は『なるほど』と呟いて諦めてくれたらしい。
変な人じゃなくて優しそうな人で良かったけど…なんでこんなに今日は声を掛けられるのか…。
「この辺はあまり治安が良くないからね。君みたいな可愛い子が一人で居ると危ないよ。彼氏さんも気が気じゃないだろうね」
男性はそれだけ言っていなくなったけど…
