ちょうど目的地に着いて話は終わった。




「大丈夫だよ。あの弘だから」




「はい」




「祭り楽しんでね!あとでまた会おう!」




「色々ありがとうございました!また後で!」





最後は暗い雰囲気無しで別れた。








流石に酷なことを言ったかな。



でも…弘とのことをちゃんと考えている子で安心した。




だけど…どうなるかな。




弘はどちらを選ぶのか。



あいつは超が付くほどお人好しで優しいからなぁ。



まぁ弘には蓮さんが付いてるからな。どんな決断をしたとしても…。






何年経っても答えなんて出ないし、あの時、俺が下した決断が正しかったか否かなんてわからない。




桜のことが好きで、一緒になる未来しか考えていなくて、いざ現実を目の前にした時、若造だった俺がした決断が正しかったのかなんて…。





「……参ったな…」





何年も前の出来事が脳裏に浮かぶ。





愛してやまない人と血の繋がった家族を天秤に掛けて、家族を捨てた。




『勘当する』




そう言った時の父の呆然とした顔が、声を上げて泣いた母の声が、縋るように俺の手を取った妹の手の感触が。




国家公務員であった父は何も言わなかった。いや…何も言えなかったのだろう。




俺が心の底から愛してしまった人の実家が極道だという事実はどうしても変えられない。




俺のせいで、父から職を奪うなんていう選択はできるはずがなかった。




だからと言って…父や母、妹の為に桜と別れるという決断はどうしてもできなかった。




三人の子供に恵まれて、仕事も上手くいってて順風満帆の幸せな生活を送っている。



好きな人と家庭を持つという事がこんなにも幸せなことだとは思っていなかった。






だけどたまに、本当にふとした時に…父と母に孫の顔を見せてやりたいと思ったり、『自分の店を持ったら一番最初の客にする』という妹との約束を思い出したりする。




捨てたものがあるから今の幸せがあるのに…皮肉だよ。






だが、何度あの時に戻って、何度決断を迫られても…俺は一生を桜に捧げる。




弘。お前なら大丈夫だろ。