「弘が好きだと伝えた相手も、付き合った相手も、後にも先にも美紅ちゃんだけだよ」




恋とか愛とかに興味を示さなかった弟に彼女ができたと知って喜ばない人間は秋庭にはいない。



弘のあんな幸せそうな顔は初めて見たからね。




そこまで言えば、美紅ちゃんの険しかった顔が和らいだ。






「あの…遥輝さん」




「ん?」




「ずっと聞きたいことがあったんですけど…」





「俺に答えられることなら」





少しだけ改まった美紅ちゃん。



はて、俺に聞きたいこと…?






「遥輝さんは自分の家族に桜さんのこととか…秋庭家のこととか…なんて言ったんですか?」




そういう事か。




ちょうど赤信号で停車したのでチラリと隣を伺えば、真剣な瞳と目が合った。




なるほど…流石は弘が心底惚れた子。




目の前のことしか頭にない、弘のことしか見えてない、脳内お花畑の小娘ではなかったらしい。



あれだけ弘に甘やかされ、愛されていて、それに溺れることなく現実を見据えているとは…恐れ入った。





「美紅ちゃんは親御さんに弘の仕事の話はしたの?」





「いや…今は隠してます…」





「そっか…」





「私の父…大学の教授で…弘翔の仕事のことを知ったら交際を許してくれるはずがないんです」





なるほど。そりゃそうだ。




大学の教授って…公務員だった俺の両親よりハードルが高いじゃないか。



言い方は悪いが、反社会的勢力との関りなんてあってはならないことだ。





「美紅ちゃんは弘とのこれからについてどう考えてるの?」





「別れるなんて考えられません」





少しも迷うことなく、凛とした表情で答えた美紅ちゃん。




俺は弘じゃないから、弘がどうするつもりなのかは分からない。



だけどこれだけは言える。





「君に好きだと伝えた時、弘は覚悟を決めてたと思うよ」





いつかの俺と同じように。





「本当に大切なものを守ろうと思った時、何かを捨てる覚悟をしなきゃいけない。俺が捨てたものと、弘が捨てるものは違うけど…俺はただ、好きな人と一緒に居たかっただけだよ」





「……………。」





「大丈夫。何があっても美紅ちゃんのことは弘が幸せにするよ」





「でも……」





「重い話はここまで!!
今後のことは卒業した後に考えな」





俺の言葉で少しだけ固くなっていた雰囲気が和らいだ。





「大丈夫だよ」




もう一度言えば、美紅ちゃんは笑って頷いてくれた。