─遥輝side─
「なっ…なんでア〇パン〇ンメドレー…ッッ!?」
「甘いな美紅ちゃん…5歳児のア〇パ〇マン愛を舐めちゃいけない…。エンドレスリピートだよ…!!」
「こんなに怖い見た目の車なのに…」
「いやいや、俺だって桜の事を口説くときはいい感じの洋楽とか流してたからね!」
道中、車内のア〇パン〇ンメドレーにツボったらしい美紅ちゃんと軽口を叩き合う。
職業柄、女性と話すことには慣れているが、下心が無くて且つお客さんでもない相手は話しやすい。
お客さん相手に余計なことやプライベートな話をすれば色々と厄介なことになるからね…
「遥輝さん、今日はお店の方は大丈夫だったんですか…?」
「んー、大丈夫大丈夫」
「それ絶対に大丈夫じゃないやつですよね…!?」
自主定休日にしてきました…とは言えない雰囲気。
笑顔で乗り切ろうと思ったけど、ジロリ睨まれて呆気なく降参した。
これ以上、美紅ちゃんに気にしてほしくもないしね。
「今日はいいんだよ。うちの嫁さんの頼みでもあったからね」
「桜さんの?」
「そ」
そういう意味だ…?と美紅ちゃんの顔が物語っていて思わず笑みが零れた。
俺や聖弥さんが総出したことがやっぱり気になっているらしい。
さて…なんと言ったらいいのか。
「桜も楓さんも、弘に彼女ができたことが相当嬉しかったんだと思うよ」
聖弥さんも…もちろん俺も。
だけどそれ以上に桜と楓さんは実弟に愛する人ができたのが嬉しくて仕方なったのだろう。
弘に彼女ができたことを自分の事のように報告してきた桜の顔が浮かぶ。
大人げなく妬いてしまいそうになる程…嬉しそうに『弘に彼女ができた!』と言ってきたあの日の桜は死ぬほど可愛かった。
「あの容姿だから女性に不自由したことはなかったと思うけど、弘が誰かに惚れて組全体に紹介するなんて誰も思ってなかったんだ」
「……どういう意味ですか?」
美紅ちゃんの顔が少しだけ曇る。
困った。こんな顔をさせたいわけじゃない。
『見合いでも政略結婚でも何でもいい。組の為になることなら何でもする。組と兄貴の為に死ぬと決めている俺にこれ以上は大切なものなんか必要ないだろ。…相手を傷つけるだけだ』
いつだったか…昌之さんと聖弥さん、弘と俺の四人で飲んだ時に真っ直ぐに弘が言った言葉。
確か、若頭を襲名した直ぐ後だったかな。
「変な意味じゃないよ」
だからそんな顔しないで。
俺、弘と桜に殴られちゃうからさ。
「弘にも本気で愛したいと思える女性ができたんだなってことだよ」
組の為に、蓮さんの為に死ぬと決めていたあの弘が。
理屈じゃなくて本能で恋い焦がれる人に巡り合えたんだ。
そりゃ、桜も楓さんも歓喜するさ。
