緩い声と共に襖を開けて入って来たのは久しぶの遥輝さん。
ジーパンにTシャツといったシンプルな格好なのに、相変わらずどこぞのファッションモデルのような容姿だ。
「久しぶりだね美紅ちゃん」
「遥輝さん…わざわざすいません…本当に」
一年以上先まで予約の埋まっているカリスマ美容師さんに髪をセットしてもらうなんて贅沢が過ぎる…。
忙しい遥輝さんに時間を割いてもらうこと自体ホントに申し訳ないし…。
「いいのいいの。蓮さんと弘にはうちのチビ達もお世話になってるし、恩を返せる機会ってほとんどないらね」
曰く、遥輝さんも聖弥さんと同じで、蓮さんにお礼をする時は弘翔が喜ぶことをする派らしい。
「蓮さん自身に何かするよりも、弘の喜んでる姿を見てる蓮さんが一番幸せそうなんだよ」
そこまで言われてしまえばお言葉に甘えるしかない。
遥輝さんは鼻歌交じりに道具を準備し始めてしまったし…
「遥輝、あとは任せた。楓が来ると思うが、俺は仕事に戻る」
「りょーかい」
「聖弥さん、ありがとうございました!」
「あぁ」
それだけ言うと聖弥さんは部屋を出て行ってしまった。
──「気まずかった?」
聖弥さんが出て行って、髪をセットしてもらっていると、心底楽しそうに遥輝さんが話しかけてくる。
流石は美容師さん。雰囲気を和らげるのが上手い。
それに、遥輝さんは弘翔と同じくらいラフな感じだから話しやすい。
「…ちょっとだけ…」
「だよね。俺も初めて会った時は聖弥さんに殺されるんじゃないかと思ったよ」
思い出すように笑った遥輝さんに釣られて私も笑ってしまった。
確かに初めて会った時は怖かった…。
「ま、でも良い人だよ。口下手で不愛想だけどね」
何故か遥輝さんがドヤ顔で言うからまた笑ってしまった。
その後は、話題が豊富で話の上手い遥輝さんのおかげであっという間だった。
「さて、こんな感じでいかがでしょうか?お嬢さん」
「あ、ありがとうございます!」
なんか私じゃないみたい…。いつもは降ろしている髪がアップになっている。
髪飾りなんかは全て遥輝さんが用意してくれた。
遥輝さんの話に気を取られていてちゃんと見ていなかったけど、いつの間にこんなすごいことに…。
流石はプロ。
