楓さんは笑いながら言ってくれるけど、聖弥さんは組長なんだし申し訳なくて仕方ない。



そんな私の心の中が分かったらしく『気にする必要はない』と眉間に皺を寄せて聖弥さんが言ってくれた。



いつだったか、この聖弥さんの仏頂面はデフォルトだと楓さんが教えてくれたことがあったのを思い出して少し安心した。





「じゃ聖ちゃん、私は駿の様子見に戻るから美紅ちゃんの着付けよろしくね」





「……お前がやればいいだろ…」





「えー、私、聖ちゃんみたいに綺麗に帯び結べないから」





言いながら楽しそうに笑っている楓さん。これは絶対に面白がっている…




楓さんはそのまま『じゃよろしく。そろそろ遥輝君も来るから』と部屋を出て行ってしまった。





「…………。」





「…………。」





「…………。」






やっぱり聖弥さんと二人きりだと少し気まずいような…




小さくため息を吐いてから、仕方ない…といったように立ち上がった聖弥さん。



あんまり気にしてなかったけど、聖弥さんの着物もさっきの楓さんの着物もとても綺麗に着付けられている。



聖弥さんがやったのかな?





「立ってくれ」




低くて耳に馴染む声で言われて、跳ねるように立ち上がった。





「…………。」





「…………。」





「…………。」





「…………。」






着付けてもらっている間、会話は一切なかったけど、嫌な感じはしなかった。




それよりも聖弥さんの手際が良すぎて、流石は呉服屋の息子って感じ…。





「……帯の結び方は何がいい?」





「え?」





「一通り、なんでもできるぞ」





流石…。じゃなくて、帯の結び方っていってもよく知らない…。




なんて答えたらいいのか迷っていると『何でもいいか?』と困ったように聞かれた。



慌てて『お任せします!』と答えれば、また無言で聖弥さんの手が動き始めた。






「…………。」





「…………。」





「…………。」





「…できたぞ」






所要時間10分弱。
流石過ぎるとしか言えない。




聖弥さんが持ってきてくれた鏡で見て見れば、上品な浴衣に綺麗に結ばれた帯。



なんていう結び方なんだろう…。凄い凝った結び方だ。





お礼を言って頭を下げればまた『気にしなくていい』と困ったように言われた。





「…………。」





「…………。」





そしてまた沈黙。




どうしよう…と思ったその時






──「聖弥さん、似合ってるよくらい言ってあげなよ」