「お飲み物を用意してきます」




紺色の着物の人が出て行ってしまったので再び聖弥さんと二人きりになる。




それにしても…静かな家だ。



足音一つしないし、人の気配も全くしない。





「これだ」




手持無沙汰で何となく気まずくてどうしようかと思っていれば、聖弥さんが部屋の押し入れから木箱を取り出してくれた。




何も言われずに目線だけで開けろと言われ箱を開ければ…





「え、可愛い…」




水色の布地に花びらの模様が入った浴衣。



明るい色なのに大人っぽくてお洒落で、とっても可愛い。




思わず見とれてしまった。だけど…




「こんな高そうなものいただけませんよ!」




高校生や大学生が着るような薄くてペラペラの生地の安物の浴衣とは全然違って、触っただけで高級なのがわかってしまうような浴衣。




さっき聖弥さんが、実家が呉服屋だって言ってたけど、老舗の呉服屋さんの浴衣なんだから高級で当然だ。




だけど、私のようなただの大学生が着るにはあまりにも立派過ぎて恐れ多い。





「そんな大した物じゃない」





「でも…」




言い淀んだところで…





──「みーくーちゃーん!!」




盛大な音をたてて襖を開けたのは…楓さん。



後ろにはさっきの男性が困ったような表情を浮かべながら立っている。





「姐さん…その開け方されると襖が壊れますって何度言えば…」




心底困ったような声で言った男性は私と聖弥さんの前にお茶を置いた。



名前は酒井さんといって、春名組の幹部らしい。



同じ幹部でも高巳とは全く違って、落ち着いた雰囲気の人だ。




それにしても、春名の人たちは全員和服が似合う…。





「頭、一時間後に大切な会合が入ってます。家族サービスもほどほどに」





「あぁ」





それだけ会話をすると深く頭を下げて部屋を出て行ってしまった。




『酒井くんは相変わらず固いわね~』とケタケタ笑っている楓さんは聖弥さんに出されたお茶を勝手に飲み干してるし…





「迎えに行けなくてごめんね美紅ちゃん。大丈夫だった?聖ちゃんに何もされてない?」





「人聞きの悪いことを言うな!何もするわけないだろ」





「いやこっちこそ、駿君が体調悪いときにすいません。聖弥さんも忙しいのに…」





「駿はただの夏風邪だから大丈夫よ。聖ちゃんも蓮さんと弘にお礼ができるならって言ってたし大丈夫」